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番外編.例題その1(3)*

 俺は急くように先生の腕を引いた。シーツの波間に肉付きの薄い身体を組み敷いて、堪え切れなく顔を寄せる。  しかし、唇が重なる直前で俺は一旦動きを止めて、 「…て言うかさ……」  吐息が掠める距離のまま、揶揄めかして告げてみた。 「先生だって本当はしたいと思ってたでしょ……? そろそろ俺が欲しくて、恋しくて、堪んなかったんじゃないの」  すると先生はあからさまに呆れたような溜息をつき、普段と変わらない平坦な物言いで短く答えた。 「お前は前向きだな」 「……答えになってないんですけど」  俺は一つ瞬いて小さく笑い、次いで耳元に顔を寄せる。  思わず笑ってしまったのは、そこから先生の本音が知れたから。「思った」とは言ってくれない。でも、「思わなかったわけじゃない」それが答えだ。 「相変わらず素直じゃないですね」  内緒話のように潜めた声で続けながら、耳殻を舐め上げ、濡れた音をそこ残す。先生の肩が微かに揺れた。 「……ん…」  耳から首筋へと沿わせた唇を、ややしてふわりと重ね合わせる。浅く食むように啄ばむと、応えるように薄く開いた隙間から舌先を滑り込ませた。反射的に逃げそうになる彼のそれを追って、柔らかく絡めとる。緩急をつけて擦り合わせ、溢れそうになる唾液を啜った。 「…っ、んぅ……っ」  間近にある先生の目元が徐々に色づく。熱を帯びて、息が上がる。  俺は口付けを解かないまま、片手で先生の身体を着衣の上からまさぐった。  先生の愛用する、滑らかな薄手の生地の黒いパジャマ。  普段と代わり映えのしない色のせいか、その清潔感のある着こなしのせいか、相変わらずストイックな印象は拭えないのに、そんな姿をどこか可愛く見てしまうのはいつからか自分がスウェットしか着なくなったからだろうか。

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