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番外編.例題その1(5)*

「だからっ……、お前はもう少し、加減って、ものを……っ」 「そんなの、先生が声を抑えようとするからでしょ。折角今日は他に誰もいないのに――」  身体を繋げたまま、仰向けで俺を見上げる先生の双眸は半ば虚ろで、そのくせ口から出る言葉は未だどこか理性的だ。  それがかえって俺を煽り、普段は鳴りを潜めている加虐心に火をつける。  既に先生の肌も周囲のシーツも、何度目かの吐精の名残に濡れている。  でも俺はその程度ではまだ全然足りなくて、 「そうじゃなくても、この家は壁は厚い方だから、音漏れはし難いって言ったの、先生じゃないですか」 「あ、れは……っこういう、意味じゃ――…っあ、…待……っ」  逃げたいように身じろぐ先生の身体を引き戻し、浅くなっていた繋がりを一気に深くした。 「ぃ…っ――!」  先生は声にならない声を上げ、背中を大きく仰け反らせた。俺は上体を屈め、差し出されるかのように天を仰いだ顎先に舌を伸ばす。  晒された白い喉元に甘く噛み付き、少し強めに吸い上げる。肌理細かな薄い表皮に刻まれた淡い所有印に、何度も唇を押し当てた。  一方で肌蹴させたシャツの下に指先を滑り込ませ、服の陰で密やかに凝っていた突起を摘み上げる。 「っ! ぁ……っも、やめ…っ……」  先生の口から、堪え損ねた吐息が漏れる。が、それもすぐに息を殺して潜められた。 「ほら、そうやって我慢するから」  だから俺は先生を放してやれない。だって先生にはまだ、それだけの余力があると思えてしまうから。  俺は先生の枷を外したいのに。  もっとずっと乱れて欲しいのに。  俺のこと以外、何も考えられなくなるくらい――。

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