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番外編.例題その1(6)*
「解かってますよ。先生が言いたかったのは、真面目な話をする時も外には聞こえないから、安心していいってことだったんですよね」
最奥へと埋め込んだ熱をそのままに、俺はしらじらしく微笑って問い返す。
すると先生は伏せていた視線を上げて、責めるような呆れたような眼差しで俺を見た。
「何ですか?」
「お、前は……」
「あー…、『性格悪い』って感想なら、加治(かじ)にも時々言われますよ」
冗談めかして笑顔を見せると、先生の反応も待たずに啄ばむだけのキスを落とす。今度はちゃんと唇に。
そして僅かに目を瞠った先生を見下ろしながら、上体を起こし、改めて先生の下肢を抱えなおした。
胸元に置いていた指先で突起を軽く爪弾くたびに、ぴくりと先生の身が揺れる。他方の手で先生の屹立を掴めば、言いように反して先端から新たな雫が伝い落ちた。
「て言うかさ、やめろって言う割りにこれ――」
「い、ちいち言わなくていいっ……」
囁くように言うと、先生の目端が瞬く間に朱を帯びる。先を阻むようにかぶせられた返答も、上擦ってまともな声になっていない。
俺は声なく笑みを深めて、握るようにした手指をゆっくり根元まで下降させた。
その傍ら、
「っ! ぁ、あ……!」
不意打ちめいた動作で腰を引き、今度は極めて浅い位置で動きを止める。焦らすようなその所作に、先生の腰が物欲しそうに戦慄いた。
「んっ、……っ」
熱に絡めた指先を緩慢に上下させる。それだけでも雫は止め処なく溢れるが、達するには及ばない程度にあえて加減する。
「ねぇ、先生。どうして欲しいか言ってみて」
先生は唇を噛み締め、水膜に滲む瞳を俺に向ける。そんなこと言えるわけないと、はっきり顔に書いてあった。
だけど、今夜はそれだけでは許してあげない。
「ほら……たまには素直になってよ」
透明な珠を浮かせた先を、指の腹で撫でる。それもまたゆるゆると焦らすような手つきで、煽っては留まり、留まっては煽るを繰り返す。
無意識にだろう、先生の腰が先を追うように艶かしく揺れる。手の中で屹立は一層昂ぶり、びくびくと震えていた。口を閉ざしてはいるけれど、漏れる吐息は着実に熱を増している。
「は……っ仲、矢……」
相変わらず先生は明確な言葉を口にしない。口にはしないまま、ただ、せつなげに掠れた声で、俺を呼んだ。
向けられている視線は、茫洋としながらも俺からぶれない。誘うように揺蕩う眼差しが俺を射止めている。その全てが無自覚なのがまた性質が悪い。
「――先生、ずるい」
即物的に腰の奥が甘く疼いた。次いで、胸が心地良い痛みを訴える。
「ホントずるい……」
搾り出すようにこぼして、俺は先生の腰を押さえ込んだ。後は息つく間も無く一気に貫く。
これ以上ないくらいに深くまで穿つと、先生の身体の脇に両手をついて、先刻までの様相が嘘みたいに、激しく肌のぶつかる音を響かせた。
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