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番外編.例題その1(11)
「これでちょっとなら、その先はどうなんだ。俺を殺す気か」
ゆらりと頭を擡げ、先生は横目に俺を見た。一見は普段と同じ覇気の乏しい眼差しなのに、今はそれだけじゃないように見える。
いつも通りに聞こえる平坦な口調もどこか威圧的で、珍しくそんな表情をあらわにする先生に、俺は思わず狼狽えた。
「ごっ……ごめんなさい、次からはもっとちゃんと加減しますから」
他に術なく、怯みながらもとにかく謝罪を口にする。
「約束します、もう無茶なことはしない」
居住まいをただし、頭を下げる。
「だから、先生……」
ひたすら先生の目を真っ直ぐに見詰めて、乞い続ける。それ以外の方法など何も浮かばなかった。
だけど、
「お前の言葉はあてにならない」
先生はその全てをにべもなく切り捨てる。
「そっ、そんなことないですよ、俺だって自分で言ったことは」
「どの口がそう言うことを……」
食い下がっても、溜息混じりにあしらって終わろうとする。
やばい、言葉が出てこない。言い訳は得意なはずなのに、それ以上の言葉が見つからない。
「自分は嘘吐きだと開き直っていたのはどこの誰だ」
そうこうしている内に、とどめを刺された。
先生は再び顔を背け、上掛けの陰で目を閉じた。俺の返答など待つつもりもないようだ。
「……」
俺は無言のまま肩を落とす。がっくりと項垂れて、そのくせ先生の傍から身を退くこともできない。
気分はまさに天国から地獄。最早溜め息すら許されないような心地がした。
居た堪れない沈黙が身に染みる。いつ終わるとも知れない生殺し状態。
やり過ぎればどうなるかなんて、少し考えれば分かったはずだ。それなのに俺は調子に乗って、舞い上がって、まるで周りが見えなくなって――本当にどうしようもないはしゃぎ方をしてしまった。
それこそ、どれだけ子供なんだと言われても仕方ない振る舞いだったと自分でも思う。今なら。
「………先生」
俺はおずおずと声をかけた。
「反省してます」
しつこいと思われようと、ここはもう謝るしかない。
「ごめんなさい」
横向きの先生の身に額がくっつくほど、深々と頭を下げた。
「……本当に反省しているのか」
すると先生が静かに答えた。緩慢な仕草で身動ぎし、仰向けになって天井を見上げた。
俺は僅かに顔を上げた。先生の視線が、ちらと俺の方に向く。
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