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番外編.音を立てないドアの開け方(2)
いまだに生徒扱いしてしまうのをどうにかしなければと思うものの、何かにつけつい口を出してしまうのは、一種の職業病だろうか。
「先生嘘つけないもんね」
いや、原因はこれにもあると思う。
仲矢が今でも〝先生〟と呼ぶから、俺も余計にそのスイッチが上手く切り替えられなくなるのだ。
――と、言うことにしておきたい。
「瀬名の嫁、可愛いって噂だけどどんな人なの?」
「……」
「え、何で無視なの」
半ば聞こえないふりで、コーヒーはまだだろうかと視線を巡らせると、
「じゃあ、話を変えます」
仲矢は更に身を乗り出すようにして距離を詰め、俺の顔をじっと見た。
そのまま無言で間を置かれ、俺は仕方なく横目に視線を戻す。
目が合うと、仲矢は待っていたように芝居染みた神妙な表情(かお)をして、そっと人差し指を立てて見せた。
「一つ、提案してもいいですか?」
「……何だ、急に」
「瀬名に報告しませんか」
その仕草や声音からふざけているのはわかったが、告げられた言葉に俺はますます閉口した。
横向けていた視線を、ため息と共に一旦伏せる。
「え、あれ?」
仲矢はぱちりと瞬いて、僅かに腰を浮かせた。
「あ、や、じゃなくて――」
しかし、そう続けようとしたところに男性スタッフがやって来る。彼は空気を読むことなく「お待たせしました」と笑顔を浮かべ、ホットコーヒーとアイスコーヒーをテーブルに置いた。
一礼を残して去って行くその背を視界の端に、俺は早速自分の前に置かれたホットコーヒーに手を伸ばした。
手元に視線を落とし、ブラックのままカップを傾ける。
「いや、だから……冗談だよ、先生」
はっとしたように、仲矢が慌てて顔を覗き込んでくる。
「瀬名に言えるわけないことくらい俺だって解ってるよ」
取り繕うように咳払いをして身を引くと、仲矢も自分のグラスを引き寄せた。
そしてそのままごくごくと数口飲み干してから、遅れて驚いたように「にがっ」と口を拭った。
コーヒーは微糖派だという仲矢は、いつもきまってガムシロップを半分ほど入れているのに、それを完全に忘れていたらしい。
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