123 / 137

番外編.音を立てないドアの開け方(4)*

       ファミレスを後にし、仲矢の部屋に着くと、靴を脱ぐより先に狭い玄関の壁に身体を縫い止められた。  一方的に肩を押さえられ、噛みつくように口付けられる。微かな痛みを訴える間もなく、歯列を割られ、すぐさま舌を差し入れられた。 「んぅ……っ、待っ、んん……!」  俺は咄嗟に顔を背け、密着する身体を押し返そうとする。  しかしその手はすぐに阻まれて、利き手を頭上で押さえ込まれた。 「話、をっ……するんじゃ、なかったのか……っ」 「そのつもりだったけど、やっぱ先に先生が欲しくなっちゃって」  口付けが解かれ、首筋に顔を埋められる。  乱れた息を整えながら、何とか制しようと言葉を紡ぐが、状況は何も変わらない。 「と、ともかく、こ、んなとこじゃ……っ、せめてベッドに行くまで、待……」 「無理です」 「な……」 「だって待てるなら待ってますから」  仲矢が吐息混じりに釘を刺す。言葉通り、上目遣いに向けられた双眸はすっかり熱を帯びていた。 「これでもずっと我慢してたんですよ」 「っ……」  その声に、その眼差しに、不覚にもどくんと鼓動が跳ねる。  下肢の間に膝を割り入れ、より逃げられないようにしながら、仲矢はもう一方の手で俺のシャツのボタンを外し始めた。 「ねぇ、触れてもいいでしょ……?」  耳元で、請うように囁かれる。 「好きです、先生」 (だめだ)  ――その熱は飛び火する。  俺は何も言えないまま、仲矢の目を見詰めることしかできなかった。 「それって、いいってことだよね」  悪びれず笑みを深め、仲矢は嬉しそうに顔を擦り寄せてくる。 (……ずるいのはどっちだ)  仲矢はよく俺のことをずるいと言うが、お前も十分ずるいと思う。  こうなるともう抵抗らしい抵抗はできない。  俺は諦めたように力を抜いて、空いている手で仲矢の後頭部に触れた。

ともだちにシェアしよう!