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番外編.音を立てないドアの開け方(4)*
ファミレスを後にし、仲矢の部屋に着くと、靴を脱ぐより先に狭い玄関の壁に身体を縫い止められた。
一方的に肩を押さえられ、噛みつくように口付けられる。微かな痛みを訴える間もなく、歯列を割られ、すぐさま舌を差し入れられた。
「んぅ……っ、待っ、んん……!」
俺は咄嗟に顔を背け、密着する身体を押し返そうとする。
しかしその手はすぐに阻まれて、利き手を頭上で押さえ込まれた。
「話、をっ……するんじゃ、なかったのか……っ」
「そのつもりだったけど、やっぱ先に先生が欲しくなっちゃって」
口付けが解かれ、首筋に顔を埋められる。
乱れた息を整えながら、何とか制しようと言葉を紡ぐが、状況は何も変わらない。
「と、ともかく、こ、んなとこじゃ……っ、せめてベッドに行くまで、待……」
「無理です」
「な……」
「だって待てるなら待ってますから」
仲矢が吐息混じりに釘を刺す。言葉通り、上目遣いに向けられた双眸はすっかり熱を帯びていた。
「これでもずっと我慢してたんですよ」
「っ……」
その声に、その眼差しに、不覚にもどくんと鼓動が跳ねる。
下肢の間に膝を割り入れ、より逃げられないようにしながら、仲矢はもう一方の手で俺のシャツのボタンを外し始めた。
「ねぇ、触れてもいいでしょ……?」
耳元で、請うように囁かれる。
「好きです、先生」
(だめだ)
――その熱は飛び火する。
俺は何も言えないまま、仲矢の目を見詰めることしかできなかった。
「それって、いいってことだよね」
悪びれず笑みを深め、仲矢は嬉しそうに顔を擦り寄せてくる。
(……ずるいのはどっちだ)
仲矢はよく俺のことをずるいと言うが、お前も十分ずるいと思う。
こうなるともう抵抗らしい抵抗はできない。
俺は諦めたように力を抜いて、空いている手で仲矢の後頭部に触れた。
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