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番外編.音を立てないドアの開け方(5)*

     片足を抱え上げ、耳朶を食みながら、急くように仲矢が熱を埋め込んでくる。 「ん、ぁ……っ」  繋がりが深くなるのに合わせ、かかとが浮いて、俺は思わず仲矢の首に腕を回した。不安定な体勢に時折身体が軋むようで、そのたび呼吸が小さく乱れる。 「先生、大丈夫……?」 「ふ……、っ!」  耳に直接注ぎ込むように囁きながら、胸の先を転がされる。  大丈夫かと問う一方で、腰を強く押し付けられる。 「いっ…、ぁ、あぁ……っ」  接合部の皮膚が引き攣り、戯れに突起を抓られる。痛いと思うのに甘く痺れるような浮遊感が全身に広がって、腰の奥に灯る熱が一段と温度を上げた。  よくあるワンルームマンションの壁なんてそう厚くはないだろうに、揺さぶられるたび、突き上げられるたび、口を突く嬌声が抑えきれなくなる。  それもこんな玄関先で、いつ誰が扉一枚隔てただけの通路を通りがかるか知れないのに。  女性の声ならまだしも、俺の声なんて、どう聞いても男としか思えないのに。  俺のせいで、仲矢が変な目で見られるようなことだけは避けたいのに――。  そう思うのに、どうしても我慢できない。 (これじゃそれこそ教師失格だ……)  俺は隠れたいように仲矢の肩口に顔を伏せ、抱きしめる腕に力を込めた。 「先生……?」  耳に吐息がかかる距離で、仲矢が俺に呼びかける。  それだけで身体が熱を帯び、唇が小さく戦慄いてしまう。  ――だめだ。  やっぱりこのまま流されるわけにはいかない。  危うく手放しかける理性を手繰り寄せ、俺は引き寄せるようにして仲矢の耳元に顔を寄せた。 「……仲矢」  そして仲矢が何度もしたように、それをあえて真似るようにして囁く。 「ベッドに行きたい」  せめて少しでも外界から離れたベッドの中に。

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