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番外編.音を立てないドアの開け方(8)

     霞む意識の中、カーテンの隙間から見える空が白んで来ていたのは覚えている。ただ、そこからの記憶がない。  自分の気持ちも昂っていたのは確かだ。呼び方を変えただけであんなに高揚するとは思わなかった。  別にそれを今更後悔しているわけではない。  わけではないが……、さすがにそう何度も、それこそ記憶が飛ぶまでというのはやはりどうかと思う。 (身体が重い……)  また立てないようなことになっていたらと思うと気も重い。  宮棚に置かれている時計を見ると、時刻はすでに昼食を摂るべき時刻――正午過ぎ――になっていた。 (幸せを、感じないわけではないんだがな……)  それを止められない自分にも問題はあるのかもしれない、と自嘲めいた反省をしながら、俺は深いため息を吐いた。 「先生……」 「っ、……!?」  と、不意に背後から呼び掛けられる。  上掛けの中、背中から俺を抱き締めるようにして眠っていた仲矢の寝息が一瞬途切れ、回していた腕にもぎゅっと力が込められた。  しかし、俺が驚いたのはそのこと自体にではなく、そんな仲矢の動作によって気づかされた、とある事態の方にだった。 「なっ……」  あろうことか、身体が繋がったままだった。

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