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番外編.音を立てないドアの開け方(9)*

「センセ~、もういっかい……」 「っ待て、う、ごくな……っ」  ごにょごにょと言いながら、仲矢が腰を密着させてくる。その様子から寝ぼけているのはすぐにわかったが、かと言ってそれを理由に受け流せるほど俺に余裕はない。 「ちょ、起き……っ、おい!」 「うん……もうちょっと」 「もうちょっとじゃない、こら、聞け、――仲矢!」 「は、はい!」  いっそう抱き締めてくる腕を掴み、思わず学校でしていたように名を呼ぶと、ようやく切れのいい返事と共に仲矢がピンと背筋を伸ばした。  その拍子に接合部が擦れ、危うく変な声が漏れそうになる。俺は咄嗟に口を押さえた。 「あ、あれ……?」 「あれ、じゃない……」  口許を手で覆い、身を固くしたまま、絞り出すように言って一旦瞑目する。  遅れて状況を把握したらしい仲矢が、背後で「えっ」と短い声を上げた。  それから暫しの間を置いた後、仲矢はそっと俺の耳元に顔を寄せた。 「えっと……」  そしてどこか恥じらうように、そのくせ妙にうっとりしたような声で囁いてくる。 「その……、先生、このままもういっ」 「いいから早く抜け!」  次の瞬間、俺は反射的に答えていた。  前言撤回。  やっぱり悪いのはこいつだと言ってしまいたい。  思うように身体を動かせていたら、確実にベッドから叩き落としていただろう。 「せ、先生が抜けとか、そんな」 「うるさい」  それでもなかなか動こうとしない――どころか、そんなとぼけたことを口にする仲矢に軽く目眩を覚える。  「とにかく離せ」と急かしてもすぐに応じる気配はなく、このままでは埒が明かない気がして、俺は自棄になったように傍らのシーツを握り締めた。 「っ、ぅ……」  どこもかしこも重怠く、鈍痛の絶えない身体を引き摺って、仲矢の腕の中から少しでも抜け出そうと試みる。  そうしてほとんどうつぶせの状態ながら、どうにか這い進むようにして隙間を作った。  押し広げられている部分が収縮し、繋がりが僅かに浅くなる。声が出てしまわないよう気を付けながら、更に身を離そうと腕に力を込める。  しかし、 「……っ、!」  次の瞬間、不意に身体の奥から溢れ出てきたものに、俺は思わず息を呑んだ。 「い、っ……」  かと思うと、腰に鋭い痛みが走り、支えていた腕からもがくんと力が抜ける。 「先生……なに可愛いことしてんの」  シーツに顔を突っ伏して、あまりの居た堪れなさに動けなくなっていると、仲矢が笑み混じりに俺の頭を撫でてきた。

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