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番外編.音を立てないドアの開け方(10)*

「ほんとはもう少しこのままでいたかったけど……」  からかうように言われても、いまは何も返せない。  すると仲矢は笑うような呼気を漏らし、 「じゃあ、抜きますね」  見も蓋もない言いようとは裏腹に、優しく俺の髪にキスをした。それからゆっくり身を退いて行く。 「ふっ……、ぁ、あ……っ」    あえて知らしめんとするような緩慢な動きに、無意識に声が漏れる。それに伴う耳を塞ぎたくなるような音に背筋が戦慄き、全身が総毛立つような感覚に襲われた。 「ごめん、俺いっぱい出したから」  言われることで、とろとろと肌の上を伝い降りて来るものの存在を、より強く意識してしまう。  止めどないその感触に下半身が小さく震え、ますます顔が上げられなくなる。 「先生?」 「…………なんだ」  仲矢の体温が完全に離れると、深い安堵感と共に、何とも言えない喪失感を覚えた。意に反して名残惜しいような気分になり、伏せていた顔をいっそうシーツに押し付ける。 「先生」 「……だからなんだ」  落ち着けと自分に言い聞かせるよう、密やかに深呼吸をする。そうして何とか平静を装い、顔の向きを変えた。……仲矢とは逆の方へと。  なのに仲矢は何の遠慮もなく上から覗き込んできて、閉じ込めるみたいに頭の両脇に手を突くと、 「……やっぱ無理だよね」  じっと俺の顔を見つめながら、不意にぽつりと呟いた。  俺は横目に仲矢の顔を見た。  口ごもっただけでなく、瞳が迷うように揺れているのが珍しい。  一体何が無理だと言うのか?  そのまま様子を窺っていると、 「うん。いや、何でもないです」  仲矢はただ視線がかち合ったのが嬉しいみたいに顔をほころばせた。 「仲……」 「遼介って言ってよ」  それからはぐらかすように目尻に口付けられる。  さっきの表情が嘘みたいに、普段通りの笑みを浮かべ、 「シャワー、一緒に浴びます? 狭いけど。あ、後から来てくれてもいいですよ」  仲矢は悪戯めいた仕草でキッチンの方を指差し、おもむろに身体を起こす。  そして俺を気遣うようにそっとベッドを降りると、再び俺の顔を見て、一際幸せそうに笑って言った。 「俺、先生さえいればそれでいいから」

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