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番外編.音を立てないドアの開け方(11)

       仲矢がシャワーを浴びている間に、ゆっくりと身体の向きを変え、仰向けになって息を吐いた。  仲矢の言う〝無理〟とは、何の話なんだろうか。  思い当たることがないわけではないが、確信もない。 『先生は言葉が足りない』  と、以前言われた言葉を思い出しながら、ぼんやり考える。  仲矢は少なくとも俺に対しては、自分は言いたいことは言っていると言うし、俺もおおよそそんな印象を持っていた。  が、さすがにさっきのような表情を見せられると気にかかる。 (俺はいつもこんな気持ちにさせていたんだろうか)  思い至ると、今更ちくりと胸が痛む。  ただ、仲矢は俺のことなら言葉にしなくても解るとも言っていた。  それはそれ、これはこれということなのか? (俺は言葉にされていても解っていないのかもしれないな)  だとしたら教師としても問題だが……。  何より広明さんや、きっと加治あたりならもっと仲矢のことを解ってやれるんだろうと思うと、なんだかもやもやと言うか、複雑な気分になった。 「あれ、なんだ。起きてるのに来てくれなかったの? ……って、まだそんな動けないか」  バスルームのドアの音がしてまもなく、髪をタオルで拭きながら、そっと窺うように仲矢が顔を覗かせた。  俺が起きているのに気付くと、からかうように笑って部屋に入ってくる。  下着にTシャツだけと言う姿で傍らに立ち、ふっと笑みを深めた仲矢は、 「何、考えてたんですか?」  小さく首を傾げるようにして、俺の顔を覗き込んできた。 「……別に」  その柔らかな表情に、どこかばつが悪いような心地になる。  ごまかすように目を逸らし、ゆっくり起き上がろうとした俺の背中に、当たり前みたいに仲矢が手を添えてきた。  その手慣れた気遣いにますます気持ちが揺れて、そのせいか、 「……相変わらず嘘つきだな」 「え?」 「お……しえなかったら寝かさないとか……教えても結果は変わらないじゃないか」  上体を起こしきったあと、何とか絞り出した言葉は、思いの外八つ当たりのような、負け惜しみのような言い種になってしまった。  今更何をこんなにイラついているのか、自分でもよく解らなかった。解らなかったが、そんな自分を省みて、ようやく少し我に返った。 「え……、あ、いや、それは……」 「冗談だ」  仲矢は一瞬固まって、それから焦ったように言い繕おうした。それを俺は短く阻んだ。

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