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第3話
空き時間になり、次の授業の資料に使える物を探そうと図書室に行った。
私立高校の図書室だけあって、綺麗な上に膨大な量の本が並び、革張りのソファーまで置いてあった。
(今度、自分のを借りにこよう)
本棚を見渡しながら歩く。
奥に革張りの茶色のソファが目に入り、長い足がソファからはみ出しているのが見えた。
どうやら生徒がサボっているようだ。透羽は呆れた面持ちで近付いてみる。
そこにいたのは目元に本を乗せ眠っている、朝比奈桜雅だった。
桜雅だと分かった瞬間、心臓が大きく鳴りだした。
制服のジャケットは背もたれに置かれており、白いシャツ姿だった。側まで寄ると桜雅を見下ろした。素肌にシャツを着ている為、左腕のタトゥーが透け、ボタンの外れたシャツの隙間から逞しい胸板が露わになっていた。
(どんな風に女を抱くのだろう……)
その逞しい胸板を見て思った。両手はは腹の上で組まれており、その手を見ると今度は、どんな風にその手で触れるのだろう、寝息が洩れる少し開いた唇を見れば、どんなキスをするのだろう、そんな妄想が頭を過ぎった。
透羽はソファの横に膝を付き、ジッと桜雅の寝顔を見つめた。透羽は吸い込まれるように桜雅に唇を近付けていた。
ハッとすると、その自分の行動に焦りを感じ、その直前で顔を離した。
ふっと一つ息を吐くと、目元の本取り上げた。
桜雅はすぐに目を開け、半分閉じた目で透羽を見た。
「異邦人?随分と渋い本読むね」
そう言って、本の背表紙を桜雅に見せた。桜雅は気怠そうに体を起こした。
「知らねーよ。目に入ったの取っただけだから」
「授業は?」
「体操服忘れたから、欠席」
どうやら体育だったようだ。
「あんた、随分と雰囲気違うな」
桜雅はそう言って、上半身を起こし透羽の顔をじっと見つめた。
「スーツだし、眼鏡かけてるしね。でも、覚えててくれたんだ」
「そりゃな……忘れられない顔してるからな、あんた」
そう言って意味深にニヤリと口角を上げた。
「君がまさか高校生だったなんて……見えないね」
クスリと笑いを溢すと、桜雅はあからさまに顔をしかめた。
「老けてるって言いてえのかよ」
「大人っぽいって言ってるんだよ」
「同じだろ」
「でも……この前は、本当にありがとう。ちゃんとお礼言いたかったから、会えて良かったよ」
桜雅は言葉が出ないのか、顔を逸らしている。どうやら、照れているように見えた。
これ以上ここに二人でいるのは危険な気がした。
「本当は生徒とはダメだけど、今度お礼にご飯でも奢る」
「期待しないでいる」
そう言って、桜雅は背もたれに置いてあったジャケットを手に取り、透羽の横を通り過ぎようとした瞬間、透羽はソファに押し倒され噛みつかれるようなキスをされた。
「んっ!ん……!」
桜雅の舌が透羽の舌を追う。
クチュクチュ……と唾液の絡まる音が耳につき、荒々しく桜雅の舌が透羽の口内を掻き回した。徐々に透羽の唇が痺れていくような感覚になり、腰がズクズクと疼いた。いつの間にか透羽は桜雅の首に腕を回し、桜雅のキスに夢中になっている自分がいた。
「はぁ……」
唇が離れると、お互いの舌先から銀色の糸が引き、それがいやらしく光った。
「あんまり揶揄うなよ、センセー」
そう言って、桜雅は透羽から離れると図書室を出て行った。
もしかしたら、キスをしようとしていたのがバレていたのかもしれないと思った。
職員室に戻る前に、三階の滅多に使われないトイレに入った。先程のキスですっかり体は火照り、硬くなっている自分のを中心に手をかけた。
脳裏に浮かぶのは、桜雅との激しいキス。それを思い出しながら吐精した。
(キスで抜くのって、初めてかも……)
それくらい桜雅の舌使いに翻弄された。腰が砕けたように疼き、その先を求めそうになってしまった。
10歳も下のしかも生徒とのキスを思い出し、自慰行為をする自分に呆れた。
それから、一か月ほどが過ぎ梅雨に入ると連日雨が続いた。
あれから図書室へは怖くて行けなかった。これ以上、桜雅に関わるのは危険に感じたからだ。
また、あんなキスをされたら、自分はもう後戻りできないと思った。だが、そう思えば思うほど、またあのキスをされたい、あの逞しい体に身を委ねたい、そんな事ばかり考え、桜雅への気持ちは膨れていった。
桜雅のクラスの授業の時は、極力桜雅を見ないようにしていた。時折、桜雅からの視線を感じていたが、気付かない振りをしていた。
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