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第6話

その次の日、抜き打ちで漢字のテストを行った。 「普通に授業受けてればできるくらいの問題だから」 生徒のブーイングを浴びながら、テスト用紙を配る。 「では、始め」 20分の時間を与え、その間透羽は他のクラスで行った同じテストの採点を行う。 チラリと桜雅を見ると、眉間に皺を寄せて固まっている。一応やろうという努力はしているようで、透羽は思わず笑みがこぼれた。 桜雅は国語が苦手のようだった。特に漢字は絶望的にダメらしい。 「時間だ。集めて」 答案用紙が集まると、通常の授業を行った。 職員室に戻り、桜雅のクラスの採点をする。 桜雅の解答用紙が現れると、その字の下手さに、 (きったねー字) 思わず苦笑が洩れる。 あの面構えで綺麗な字だったら逆に笑えるけど、そう思うと口元が緩んだ。 だが、点数は笑えなかった。30問の問題に対し解答が埋まっているのはその半分。一問一点計算で、11点でクラスはおろか学年最下位だった。 (いくらなんでも、これは酷い……) 進学するとは思えないが、このままいけば次の期末は間違いなく赤点だろう。 昼休みになり、図書室に行ってみるが姿はなかった。大抵の不良の類は、食後の一服で屋上にいるのがお決まりだろうと、屋上に足を運んだ。 案の定、桜雅は屋上にいた。 「さっきの抜き打ち、おまえ酷すぎるぞ」 そう言って、近寄るとタバコの匂いがした。すでに一服は終わったのだろう。 「何点だった?」 「11点」 「10点超えてんじゃん」 「威張るな。今日、放課後補習だからな」 「あ?」 言った瞬間、怪訝そうな顔を向けた。 「学年ビリだぞ、11点は。次の期末で赤点取って補習のが嫌だろ?夏休み潰れるぞ?」 少し首を傾けて、それでもいいのか?そう尋ねた。 「オレだけかよ?」 「そうだ」 そう言って、透羽は内ポケットからタバコを取り出すと火を点けた。 「あんた、タバコ吸うんだ?」 「禁煙してたんだけど、また最近吸うようになった」 「ふーん……口が寂しいから?」 桜雅は覗き込むように透羽を見る。 その色気のある目に吸い込まれそうになる。 桜雅は目の前に立つと、そのタバコを取り上げ大きく一口吸い込んだ。 「おい」 次の瞬間、桜雅の顔が近づいてきた。 「やめろ……」 桜雅の顔を手で制すと、 「昨日あんな事までしといて、何言ってんの?」 そう言って、その腕を掴まれそのまま唇を塞がれた。 桜雅が持つタバコの煙が鼻に付く。 (俺にはもうこいつを拒む理性はないな……) それでも少しばりの抵抗で、抱きしめ合う事も触れる事もなく、ただ唇だけを重ねた。 その距離感に透羽は歯痒さを感じた。

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