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第2話

百年くらい前、ある学者が男女とは別の性を発見した。 雌雄問わず共通して現れる第二の性は、その特徴により、α、β、Ωの三つに分けられた。 その中で全人類の圧倒的多数を占めるのがβ。 所謂、〝普通〟の人たちだ。 αとΩは、どちらも比率にすると全体の1割に満たない少数派。 エリート特性の強い方がαで、政治家や医者、弁護士なんかの俗に言う『お偉いさん』を調べると、ほぼ100%αだったりする。 対するΩは、定期的に訪れる発情期(ヒート)のせいで定職に就くのが難しく、発見当初は性差別の対象となっていた。 それでも、フェロモンの抑制剤が浸透し日常生活に支障がなくなってくると、貴重な存在であるΩを保護しようとする動きが強まっていった。 Ωは、男でも妊娠できるからだ。 特に少子高齢化の一途を辿っていた日本ではその傾向が顕著で、Ωだというだけで税金を免除されたり、時には要人の元で囲われることもあるほどだった。 俺――高橋(たかはし)青生(あおい)は、βの両親から生まれたΩだ。 幸いにも俺がΩであることを悲観も楽観しなかった両親は、政府機関に預けることも、誰かに差し出すこともせず、自分たちの元で育ててくれた。 俺の十歳の誕生日に、交通事故で死ぬまでは。 天涯孤独となった俺は、父の幼馴染だった小笠原(おがさわら)家に引き取られた。 小笠原家は代々優秀なαを生み出す家系で、俺が『おっさん』と呼ぶあの人も、医学界では知らない者はいないくらい著名な医者だ。 長男の涼一(りょういち)は大学教授で、海外の専門誌に論文を発表する度にあっちやこっちから賞賛され、今では一年のほとんどを国外のどこかで過ごしている。 次男の佑弥(ゆうや)は、俺と同じ年。 小さな会社でデータ入力を担当する俺とは違い、佑弥は大手IT企業で〝世の中を便利かつ安全にする技術〟を開発しているらしい。 諒一と佑弥の母親はβだったが身体が弱く、佑弥の出産が原因で命を落とした。 両親を事故で失った俺と、母親を自らの命と引き換えに亡くした佑弥。 俺たちが互いを求め合うようになるのに、そう時間はかからなかった。

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