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第4話

ああ、吐き気がする。 佑弥に別れを告げて自分の部屋に戻り、敷きっぱなしだった布団に寝転がった。 ここのところ、悪阻が酷くて嫌になる。 絶え間なく続くムカムカと妙な眠気のせいで、俺の腹の中にはガキがいてどんどん育ってんだって実感させられる。 でも、分かってるんだ。 ガキには、なんの罪もない。 「心配すんな。お前はちゃんと産んでやるから」 なんとなくそんなことを言いながら、腹を撫でてやった。 しばらくそうしてたら、スッと空気が流れて、誰かが入ってくるのが分かった。 寝返りを打つのすら億劫で無視してたら、いきなり布団を剥ぎ取られた。 「青生」 「……」 「おい、青生!」 「なんだよ……」 仕方なく振り向くと、スーツ姿の男が心配そうに俺を見下ろしていた。 海外出張に行っていたはずの涼一(にい)だ。 「あー……日本(こっち)戻ったんだ、おかえり」 「ただいま……じゃない。佑弥となにかあったのか?」 「……なんで?」 「リビングで屍になってたぞ」 「別に……なにもない」 「嘘をつくな」 涼兄は、ため息を吐いて俺の隣に腰を下ろした。 「ここのところ、電話でもずっと様子が変だっただろう」 敵わないな、っていつも思う。 佑弥との関係に真っ先に気づいたのも、この涼一兄だった。 人の気持ちに敏感なのも、αの特性なんだろうか。 「なあ、涼兄」 「ん?」 「俺、ここ出てく」 「……は?」 「どっか遠くの田舎に行って、ふたりで暮らすよ」 「田舎で?……ふたり?」 「おっさんには涼兄から言っといて。落ち着いたら顔出すからって」 昨夜、荷物をまとめた。 寒いのは苦手だから、とりあえず南の方を目指そうと思う。 道中は大変かもしれないけど、ひとりじゃないって思えばなんとかなる。 いや、なんとかする。 親になる覚悟は、もうした。 「黙って行くと騒ぎになりそうだったし、涼兄に言えてちょうどよかった。明日、みんなが仕事に出たら出発する」 「どこへ行く気だ?」 「とりあえずは南に下って、途中で良さそうな場所があったらそこで……こいつが暮らしやすそうなとこならどこでもいいや」 「こいつ?お前、ふたりで暮らすって、佑弥とふたりって意味じゃないのか?」 「……あ」 「あ?」 「あー……違う。なんか似たようなモンだけど、違うんだよな」 とりあえず佑弥本人じゃない、と告げると、涼兄がいきなり立ち上がった。 「お前まさか、佑弥の他に男ができたのか!」 「え、できたっつーかできた……けど、男とは限らないし……」 「お前はそんなどこの馬の骨か分からない女のために佑弥を捨てるのか!?」 「え?いや、女ともまだ……」 「俺は許さないぞ!」 やばい……涼兄が白熱してる。 めんどくさいことになってきた。 「涼兄、別に佑弥のことが嫌いになったとかそういうわけじゃ……うっ」 やばい。 きた。 吐き気がきた。 涼兄のでかい声が頭に響いたから、余計にきた。 「だいたい佑弥が黙ってお前を行かせると思っ……青生?」 「う……うえぇ……」 「青生、どうした!?」 「気持ち……悪いぃ……っ」 「青生!」 ああ。 こんなことになるなら、涼兄なんかに言うんじゃなかった……。

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