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最終話
起きたら、目の前に佑弥の怖い顔があった。
「ゆ……」
「なんで黙ってた」
「え……なに、を?」
「腹のことに決まってんだろ」
「腹……って、ああ」
俺が倒れたから、涼兄がおっさん呼びやがったんだな。
んでバレましたー……って、そんなアッサリかよ。
「だって佑弥、俺のこと捨てるだろ」
「……は?」
「ガキのこと言ったら、俺のこと捨てるだろ」
言いながら、もしかして今すぐ消えろとか言われたらどうしよう、なんて思った。
でも佑弥にはそんな様子は微塵もなくて、ただ猫っ毛をふわっと揺らしただけだった。
「あの、青生?」
「ん」
「子供ができたからってなんで俺がお前を捨てる必要があるのか、俺にはさっぱり分かんないんだけど……」
「なに言ってんだよ。身重の俺なんて、佑弥にとったら邪魔だろ」
「は……?」
「俺たちがこうなったのは、似たような境遇の俺に同情しただけだろ?それにαのお前には、俺なんかよりもっとふさわしいΩが現れるかもしれない。それなのに俺たちがここにいたら邪魔だろ?」
佑弥は、驚いたみたいにカッと目を見開いた。
甘いよ。
お前の考えることくらい分かるって。
俺たち、何年一緒にいると思ってんだ。
「……青生」
「ん?」
「先に謝っとく、ごめん」
「え……」
突然佑弥の声が低くなったと思ったら、なんかでっかい手が俺の顔に飛んでくるところだった。
パンッ。
左頬に走った痛みに、思わず何度も目を瞬く。
俺の上にでかい影を作って立ち上がった佑弥は、俺の胸倉を掴んで持ち上げた。
「今のすっげームカついた!」
「佑弥……?」
「何だよ、同情って。もっとふさわしいΩって!」
「だ、だって実際……」
「俺はお前を愛してるんだよ!」
「え」
佑弥は、俺をゆっくりと布団の上に降ろした。
今、なんて?
目の前のこの男、今なんて言いやがった?
「なに勝手に勘違いしてんだよ」
「……」
「好きだから、俺はお前を抱いたのに」
「……」
「邪魔なわけないだろ!?」
「……」
「子供のことだって嬉しいのに……なんで隠してたんだ」
なんで黙ってた?
佑弥に突き放されたくなかった。
佑弥の子供を失いたくなかった。
俺はただ、佑弥と一緒にいたくて。
「青生……?」
「俺……お前と離れたくないって思って……」
「なんで離れるんだよ。これから一緒にいようって時に」
ほんとは嬉しかった。
子供ができたって聞いて、舞い上がりそうになるくらい嬉しかった。
佑弥の子供なんだ、嬉しくないわけがないんだ。
でも、自信なんてこれっぽっちもなかった。
「お前に愛されてるなんて……自信、ないよ……」
「なんで?」
「だって、今までそんなこと……」
「青生、うしろ向いて」
「え?……いっ!」
ぐるりと視界が回転したと思ったら、うなじに壮絶な痛みが走った。
ぎりぎりと、歯が食い込んでくる。
「ぐ、ぅ……っ」
ふと痛みが和らぎ、ねっとりとした感覚がその上を這う。
また視界が勢いよく動き、今度は力強い腕に抱きしめられた。
「これで俺たちは番 だ」
「なっ……」
「愛してる」
「佑弥……」
「俺は青生を愛してる」
涙が零れた。
「今まで言わなかった分、これからいっぱい言ってやるよ」
「……ん」
「だから、青生」
「うん」
「夫婦になろう」
「ふ、うふ……?」
「ふたりでなんて言わせない。一緒に暮らすんだ、三人で」
「……うん」
佑弥。
俺も。
「愛してる――」
fin
♡おまけの後日談あります→
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