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第5話 出会い、そして再び3

ここに来て一週間が経った。 最初の数日は寝てばかりだったが、頭の傷も治って動けるようになり、徐々にこの世界の流れが分かるようになってきた。 俺の住んでいた世界と全く違いテレビもなければラジオもない。勿論携帯も電気もネットもWiFiも存在しない。 暗くなったら、小さなランプに『光の粉』を注ぎ入れて灯りの代わりにしていた。『光の粉』は、とある植物から採取するそうで、大体スプーン一杯で半日保ち、山頂に咲いている。それを調達するのはルークの仕事だ。まるでおとぎ話のようだが、住人達は生活の為、真面目に光の粉を採取していた。 一歩外へ出ると、見渡す限り植物が生い茂っている。いたるところに色とりどりの花が咲き、周辺に生えている木は見たことのない巨木ばかりである。キノの家はもちろん木造で、家具も全て木でできていた。 集落全体を纏う空気は、春風に似た肌触りの良いヴェールに包まれているような、柔らかい印象を受けた。 キノはここで小さな診療所を開いていた。町外れの小屋へ、患者さんが治療の為に訪れる。昔は遠い城で王様の主治医をやっていたとかいないとか、キノはすごいんだぞぉーと、ルークが興奮気味に教えてくれた。 診療所の隣の小屋には、大量の薬草やハーブが所狭しと収納されている。むせ返るような乾燥植物の匂いに囲まれて、助手のルークが指示通りに薬を調合していた。 ルークは、一年前に盗みに入ったキノの家で捕まえられてから、ここへ住みついている。親から酷い折檻を受けて逃げ出してきたのだそうだ。 ルークの生い立ちが俺と似ていて、他人事とは思えなかった。俺の場合は形ばかりの保護施設に入れられたが、それも辛い人生であった。 冷静になって考えてみると、どうやらここは死後の世界ではなく俺の住んでいた世界でもない。ファンタジー小説みたいなトリップがあるのかよく分からないが、確実に俺は異世界で息をしていた。 「マナト。調子はどうだ?」 午前中の診察の合間に毎日キノが俺の様子を見に来る。今日は調子が良く、居間でルークの手伝いをしていた。 「…………大丈夫」 「ほら、顔をちゃんと見せてご覧。寒くないかい?」 「お、俺は寒くたって平気だ」 椅子で作業している俺にキノが近付いたため慌てて距離を保つ。ガタン、と乾燥させた赤い実が床に散らばった。

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