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第6話 出会い、そして再び4

「ごめんなさい」 「謝らなくていい。今日は顔色が良さそうで安心したよ」 キノはさり気なく後頭部に手を回し、傷を確認する。そして良かったと言って笑った。  実は、キノの容姿が受け入れられず戸惑っていた。 ここの世界の人達は皆、耳が頭から上に向かって生えている。感情のバロメーターらしく、垂れたり、ピンとしたり、震えたり、目や口よりも先に耳が気持ちを伝えてくる。毛色も多種多様で、艶やかに手入れされていた。 キノは聡明で精悍な顔立ちをしている。背が高く、姿勢も良い。そして何よりも皆から好かれていた。 昔、施設に白く大きな『シロ』という犬がいた。シロは人気者で人懐っこく、人を噛むなど以ての外で、無駄に吠えたりしない賢い犬だった。 施設で馴染めずにいた俺は、夜中に抜け出してはシロへ会いにいった。理解してもらえる訳がないのに、犬相手に独り言を沢山呟いた。夜空に溶けていく悪口や鬱憤は、シロを通して昇華されていくようだった。シロは幼い俺の生きていく支えであり、彼の丸く澄んだ瞳は、いつまでも変わることなく優しかった。 ところがある日、信じられないことに、シロが人を噛んだのだ。後から、俺を目の敵のように虐めていた職員から折檻を受けていた事実を知った。 人を噛んでしまった犬の行く末は子供でも分かる。その頃の記憶は曖昧で、どれだけ泣いたか覚えていないくらい悲しく、シロは施設から姿を消した。 シロを助けてあげることが出来なかった。歯がゆさという名の感情は、やがて俺自身を責め立てるようになり、時々フラッシュバックして自らに纏わりつく。当時の苦しさ悲しさが感情の渦になって一気に押し寄せるのだ。 シロを失うという経験は、鬼畜な職員に身体を弄ばれるよりも辛く、大きな犬に対してすらトラウマを抱くようになってしまった。 そんな経緯で極力視界へ入らないよう避けていた大きな白い犬が目の前にいる。 しかも偶然なのか、眼差しがとてもシロに似ていた。

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