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第8話 ルークの過去2
「そうか。マナトもおいらと同じか。お願いだから、絶対の絶対においらの前から消えないでくれよ。おいらとキノとマナトの三人家族は離れちゃいけないんだ。絶対だぞ」
「うん。分かってるよ」
「本当に、絶対なんだぞ」
「絶対だよ。安心しな」
ぽんぽん、とルークの頭を撫でた。
弟がいたらこんな感じだったのだろう。施設にも年下の子はいたが、心を許してくれる子はほんの僅かだった。
突然風向きが変わったかと思ったら、鉛色の雲が凄い速さで流れてくるのが見えた。山の天気は変わりやすい。降りそうな気配を察知したら、すぐ下山するよう、キノから注意されていた。
「ルーク、雨が来る。帰ろうか」
「………………」
返事がない。横を見るとピンクの髪から見える三角の耳が垂れ、小さく震えていた。
「ルーク…………?どうした?」
何の前触れもなく、突然ルークがパタリと倒れた。まるで電池が切れたようなロボットみたいに動かない。一体何が起こったのかと、我が目を疑った。
「ルーク、ルーク……!!」
息をしていても、意識はない。目の焦点も合っていない。まるで魂がどこかへ行ってしまったようだった。
俺はどうしようかと考えをめぐらせた結果、ルークを抱え上げた。彼はそんなに重くはない。これなら、キノの家まで運べるだろう。
今、この場所には俺とルークしかいないのだ。
(何とかしなくては)
震える身体をなんとか鎮めて、ルークを背負う。眠るように目を瞑ったまま、起きる気配がない彼を、キノの元まで命を繋がなくてはならない。
湿った空気に乗って大粒の雨がじゃんじゃんと降り始めた。足元が非常に悪い。ルークを濡らさないよう、途中おんぶから前に抱える姿勢へ変え、自らの上着の中へ彼を入れる。
何としてもルークをキノへ託さなくては。
何度も何度も滑りそうになっては体勢を整えた。前の世界から履いていたスニーカーは、泥で原型を留めていないだろう。
山道が緩やかな砂利道になる。
心配そうに傘を差しているキノの姿が視界に入った。鮮やかな水色の傘が、視界にハレーションを起こす。
キノにルークを手渡して安堵した俺はその場へたり込んだ。キノはそんな俺をも軽々と抱え、家路を急いだ。
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