10 / 36

第10話 ルークの過去4

「これは俺からもお願いしたいのだが、マナトは元の世界に戻りたいか?」 元の世界に未練は何も無い。元々死ぬ予定で身辺整理もしてきた。 俺は否定の意味を込めてかぶりを振った。 「俺たちのために、ここへ残ってくれないか」 「俺たち?」 「ああ。ルークだけの為じゃなく、俺もマナトがいると嬉しい」 「『嬉しい』って……?どういうこと……だろう。俺はいてもいいの……?」 未知の感情に混乱する。誰かが居てくれて嬉しいとは何だろう。嬉しくなるくらい人を欲したことが無いから、言われてもよく分からない。 急に難しい顔になった俺の腕に、キノの指先が触れた。二の腕を柔らかく揉まれて、くすぐったさに気持ちが少し解れる。 「細い腕だ。怖がらないで。俺は、マナトが嫌がることは何もしない」 「……で、でも……」 シロに似た目が俺を見る。丸くて深緑の、混じり気の無いキノの瞳に吸い込まれそうだった。彼の耳はピンと立ち、真剣であることを物語っている。 「一緒にルークを守っていこう。勿論、マナトが悲しい時は、ルークと俺が寄り添うよ。君を大切にしたい」 キノが俺の肩を軽く抱くと、ふわりとお日様のいい匂いがした。俺の身体は全く拒否をしていない。寧ろ安心しすぎて、眠くなってしまう。 安易にそちら側へ行ってしまってもいいのか、心が揺らいだ。懐へ入ってしまえばどんなに楽だろうか。 所詮キノは他人だ。今まで俺は俺しか信じていない。みんな、俺の事を信じたフリして裏切るに違いないのだ。

ともだちにシェアしよう!