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第12話 豪傑と根暗1
朝から珍しく雨が降っていた。
雨天は患者さんも少なく、他にやることがない。大地に染み込む雨粒の音をBGMに、三人で薬草の下処理をしていた。
ルークは、倒れたことを忘れるくらい元気に復活した。
これからどうするかは決めていない。けれど、自分の居場所があることは素直に嬉しかった。そもそも未来がどうなるか誰も分からないのだ。
窓へ伝う水脈を目で追っていると、ドアをノックする音がした。対応しようとしたキノを待たずとして、豪快に扉が開く。風圧で薬草があちこちへ飛ばされた。
「久しぶりだな、キノ。文を送ってもお前が尋ねてこないから、こちらから来てやった」
キノを超える大きな図体がずぶ濡れで入ってきたのだ。燃えるような赤毛と左目の上には大きな傷があった。鍛えている身体であることは見て分かる。それにどことなく獣っぽくて猛々しい。隣にいるルークが、あんぐりと口を開けたまま驚いていた。
「…………何だ。コニスか」
「何だとは何だ!!俺からきてやったんだぞ」
「誰も呼んでない。床が濡れる。拭いてから入ってくれ。ルーク、なにか拭くものを」
「ほ――い」
キノの扱いもさることながら、コニスと呼ばれた彼の憤慨ぶりと、温度差に唖然とした。いつも優しく何事にも丁寧なキノが、コニスには別人みたいに冷たいのだ。
しかし、そんなことで先方も負けてはいない。ルークからタオルを受け取って身体を拭いた後、キノの前へ仁王立ちをした。豪快な歩き方に地面が軽く揺れる。威圧的な存在感だ。
「キノ、王がお呼びだ。すぐにでも城へ参って欲しい」
「それは断った筈だ。俺は王の専属医ではない。新しい専属医がいるではないか」
「王はお前を求めている。それに、アオノ様の持病が芳しくない」
アオノ様……知らない名前が出てきた。訳が分からなくなっていると『おきさき様だぞ』とルークに耳打ちされた。
目の前にいるコニスは、見た目からして兵士長か隊長クラスだろう。威厳漂う雰囲気からは、豪快さが垣間見える。多分、俺の一番苦手なタイプだ。
「アオノ様に関しては俺も心が痛い。文に書いてあった症状を元に薬を配合する。それで勘弁してくれ」
「それでは足りない。アオノ様にお会いして様子を診てもらいたいのだ」
「無理だ。俺はもう城へは行かない」
「非常事態だと言っているじゃないか。頑固者め。王の恩を仇で返す気か」
「何とでも言え。俺は俺の生活を守らなければならない。あちらへは行かん」
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