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第14話 豪傑と根暗3

 いつの間にか雨は止み、むせ返るような湿った土の香りがした。反射した太陽の光を受けて、水の雫が眩しく輝いている。 訳が分からないままトカゲに乗せられ、コニスと共に物凄いスピードで出発した。 ここの世界には、大きなトカゲが乗り物だ。温和な性格で人懐っこく、疲れ知らずで、どこまでも歩く。キノもトカゲを飼っていて、案の定ルークが世話係をやっていた。 反対にコニスのトカゲは荒い性格で、大きな鼻息に歩き方もうるさい。飼い主に似たのだと思う。 攫われても不思議と悲観的な気持ちにはならなかった。頑なに避けていた城へ、キノが来るとは思えない。ましてや俺を取り返しになんて、いつも冷静で落ち着いている彼からは予想が出来なかった。 城へ出向いて欲しいなら、強引なやり方は無理だろう。脳みそが筋肉で出来ているのではなかろうか。コニスは単純に物事を考えすぎだ。 小一時間、トカゲに乗って爆走した。振り落とされぬよう、手網とコニスに必死でしがみつく。 野を越え山を越え、街へ入った。キノが住んでいた集落とは全く異なる、拓けた街並みが見えてくる。白いレンガで組まれた建物が規則正しく並び、街全体が白くハレーションを起こしそうだった。 城を目前にトカゲが失速したため休息を取る。馬のように立派な鞍を外したり、甲斐甲斐しく世話をするコニスをぼんやりと眺めていた。傍から見ると精悍で勇ましい兵士そのものであるが、中身は傲慢な野生動物だ。 「あのさ、キノは来ないと思うよ。俺をこうして攫っても意味が無いんじゃないかな」 「いいのだ。どちらに転んでも俺は損にならない。だからお前を攫ってきたのだ」 彼は有名人らしく、道行く人に会釈をされている。女の子達が頬を赤らめては、こそこそと通り過ぎていった。そんな英雄と共にいる変わった身なりの俺は、当然注目を浴びる訳で、何者的な周りの視線を一身に受けていた。 「…………どちらに転ぶ??」 「キノが来れば、王とアオノ様が喜ぶ。仕える身としては主の幸せが一番だからな。だが、キノが来なければ、俺がお前を貰って連れ帰る。言っただろう、俺はマナトが気に入ったと」 予期しない口説き文句に、胸焼けに似た不快感が広がった。俺を簡単にどうにかできると思っているのが、節々の自信から受けて取れる。

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