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第16話 城にて1
城は、小高い丘を切り拓いたところへ建っていた。継ぎ足し継ぎ足して建てたような小さな建物の集合体は、硬い緑の木々に囲まれている。
時刻は夕方で、本殿に王は不在だった。ほっとしたのも束の間、今度はアオノ様に面会しろと連れて行かれる。躊躇う俺は、コニスにより重い扉の先へ無理矢理押し込まれた。
「あ、あの……」
手ぐしで髪を慌てて整える。生まれてこの方『様』が付く人に会ったことがない。
アオノ様の部屋は緑を基調とした明るい空間で、天蓋付きのベッドが置いてあった。床にはまるで花畑に居るように色鮮やかな絨毯が敷いてある。足元が絨毯に埋まるくらいふかふかだ。
アオノ様は窓際で椅子に腰掛けて外を眺めていた。夕日が降り注ぐ室内は、オレンジの光に満ち溢れている。
「こちらへ」
奥から静かな声がした。その声に耳を疑う。『おきさき様』だとルークは言ったが、女の声色ではない。椅子の側まで寄ると疑問は晴れた。アオノ様は女ではなかった。
そして彼には俺と同じく耳も毛も無かった。
「あの……はじめまして……」
「よく来ましたね。ここでは皆にアオノと呼ばれています。前の世界では青野翔太でした。君の本当の名前は?」
「え、あ、朝倉眞人です……」
何から聞くべきか分からない。
どうしてここへ来てしまったのか、俺はこれからどうなるか、後から後から疑問が溢れて言葉にまとまらない。
「眞人。座って話しましょうか」
「は、はい」
勧められた椅子へ座り、アオノ様と向かい合う。
アオノ様は物凄く綺麗な人だった。彼の中から滲み出る柔らかな日差しのような雰囲気に、心が安らいでいく。天使みたいだと思った。
こんな美しい人間を見たことがない。艶々とした長い髪からは、金木犀のような甘い香りがした。彼に微笑まれると、思考が停止し、ただただその美しさに魅入ってしまう。
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