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第17話 城にて2
「僕は十年前にこちらへ来ました。こうして幸せに暮らしていますが、初めは帰りたくてしょうがなかった。今では昔からいるような気分です。眞人は元の世界へ帰りたいですか?」
「……今のところ、それは無いです」
『そう』と、アオノ様は目を細めて微笑む。
アオノ様は、家族や学校など当たり前にある俺の環境について何も訪ねようとしなかった。
「僕は元の世界へ帰る方法を知っています。眞人が戻りたければいつでも教えます。その際は手助けをしますから、遠慮なく申し出てください。
今はキノのところにいると聞きました。キノは元気ですか?彼には大変世話になりました」
「キノは元気です。アオノ様の身体の具合はいかがですか」
すると、アオノ様は憂いに目を伏せる。
「ここの空気は僕には強くて、持病の喘息がなかなか落ち着かないのです。特に季節の変わり目はダメですね。キノの薬が一番合うけれど、彼はもう王の専属医ではない」
確かに、何をするにも息が切れていた。体力が落ちたかと思っていたが、アオノ様の言う通り空気自体が違うのであれば納得がいく。
アオノ様を診てもらえないか、俺からもキノに頼んでみようと思った。
「コニスが強引にあなたを城まで連れてきたのでしょう。明日、キノの元へ送らせます。今夜は城に泊まりなさい。眞人、何事も自然の流れに従わないといけない時があります。自分の意志を示さなくてはならない時も絶対に来る。今後どうするかは眞人自らが決めるのです。決断力があなたの糧になり、強さになります」
アオノ様の温かな手が俺の頬に触れる。俺は縋るように、彼の指を握った。
「でも、どうしたらいいか、全く見当もつかない……」
「大丈夫。答えはあなたの中にありますよ。無理に出さなくても、浮かび上がってきます。今がその時ではないだけです」
「…………そう、ですか……」
「そうです。焦らなくても、自ずと時がやってきます」
『浮かび上がってくる』と言われても、俺には全く見当がつかなかった。
小一時間、アオノ様とお話しをして、部屋を出る。宿泊用に用意していただいた客間は俺には勿体ないくらい広かった。
話題に上ったせいか、キノが恋しくなり、大きなベッドの隅で浅い眠りについた。
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