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第19話 城にて4

「そんなひ弱な力ではなにも出来ぬぞ」 「や、やだ……ぁっ……」 「いい匂いがする。たまらんな」 「へ、変たっ。やめっ……」  恐れていたことに、コニスの太い指が下着を引っかけた。興味本位で中身を見ようとしている。  昔に味わったことのある絶望感がせり上がってきた。やはり何をしても無駄なのだろうか。  奴が投げたパンツが虚しく宙を舞う。 「ほう……本当にツルツルだ」  ところが、舞う物体を空中で誰かが一瞬のうちに捕まえたのである。驚いた俺の表情に気付いたコニスが振り返った。黒い影が、パンツごとコニスの頭上へ張り付く。 「このやろー、くらえ、必殺技だー!!マナトを返せ、ゴリラやろうっ」 「なんだっ、ふが、おいっ、やめろ、前が見えないじゃないか」  この声はルークだ。暗がりでも月明りでピンクの毛色がはっきり確認できる。  ルークはこれでもかとコニスの顔に爪を立てて掻きむしり、ベッドへ振り落とされた。投げ出されたボールみたいに転がったルークが俺へ駆け寄ってくる。 「マナト、大丈夫か?」 「…………ルーク、どうして?」 「キノと急いできたんだけど、夜になっちゃって。そしたら、匂いがした。おっさんの気持ち悪い匂いと、マナトの匂いが混ざってた。だから、キノに投げてもらった。マナト、平気か?嫌なこと、されてないか?」  たぶん、自分の方が怖いのだろう、ルークの手が少し震えていた。俺は、ぎゅっとルークの手を握る。ありがとう、と言って彼を抱きしめた。  その後、ルークを投げた張本人が同じく窓から姿を現す。キノの姿を見た途端、反撃しようとしていたコニスが諦めたように首を振った。 奴に分が悪いことは明らかである。  キノはものすごい速さでコニスに近づき、胸ぐらの毛束を掴む。怒りで身体中の毛が逆立っていた。

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