22 / 36
第22話 これからの俺と未来2
「こういうやつだ」
突然ひょいとキノの膝に乗せられた。後ろから優しい匂いに抱きすくめられて、くすぐったいやら、胸の動悸で気が気でなくなる。
俺の首筋にほんのり冷たいキノの鼻先が触れた。
「俺はマナトが好きだよ。ルークに持っている家族愛ではない、もっと違う愛だ」
耳元に低い声が響き、背筋がくたんとなる。
「あ、あ、愛って、俺だってキノが好きだ」
「それなら、こっち向いてご覧」
キノの膝上を跨いで見上げた。大きな手で頬を包まれる。柔らかい肉球がくすぐったくて、心地よい。深いグリーンの瞳が俺の心を透かし見ていた。
「こちらの世界では、好きな人には口付けをするが、マナトの世界はどうだろうか」
く、口付けって、キスのことじゃないか。
キノが俺にキスをしたい、それって、それって……言葉にならず金魚のように口をはくはくさせる俺に、キノが笑った。
「やっと気付いたか。顔が真っ赤だぞ」
「え…………はぁ……うん……」
言葉よりも行動か。頭が追いつかない俺へ、キノの唇が一回優しく落とされた。
何度も何度もノックされた扉は、とうとう半開きになる。その隙を逃す訳はなく、次にはキノの侵入を赦してしまっていた。
大きくて温かい舌は、俺の口内を隈無く撫で、空気までも取られそうに吸い付いてくる。長い間、息継ぎを与えられながら、新しい生命を貰うようにキスをしていた。
気持ちが良くて、魂が抜けそうだ。
長い間、本当に長い間、キスと一言では言い表せないくらいの蕩けた時間を過ごした。
「…………アッ、あついっ……くちびるが、じんじんする……」
キノの大きな親指が俺の唇をなぞる。
「マナトは可愛いな。初めて会った時から惹かれていたよ。コニスに攫われた時は怒りで正常な判断ができなかった。もう離したくない。俺の可愛い恋人」
「…………ありが、とう…………」
ありがとう、俺の場所を作ってくれて、と言葉を続けたくても、嗚咽で繋ぐことが無理だった。
死ぬつもりで生きていた。それが今は生きたい、そばにいたいと思える人が目の前にいる。
俺は前の世界では死んだのかもしれない。だから、ここは天国だ。
実は、後に元の世界へ戻ることになるのだが、当時は本気で天国だと思い込んでいた。それくらい幸せで、生きていることに全身で歓びを覚えた。
気持ちの良い風がそよ吹く。
全てにおいて調和のとれた世界と全ての生命へ、感謝の想いを空へ放った。
【おしまい】
ともだちにシェアしよう!