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第23話その後1
確かなる俺の居場所が出来て、1年が経った。キノと俺とルークの3人は、平和に仲良く暮らしている。
朝が弱い俺に代わり、キノが朝ごはんを作る。3人で朝食を食べ、家事を分担して済まし、キノは診療に入る。俺とルークはキノの手伝いをしたり、本を読んだり、畑仕事をしたりして、夕方まで過ごす。
診療後は、3人で夕ご飯を作り、お風呂に入って1日の終わりを静かに迎える。寝室は3人とも同じだ。キノの大きなベッドの隣に、俺とルークの小さいベッドが並んでいる。
ルークは精神的に不安定なため、1人で寝ることを好まない。暗闇が追いかけてくると言ってよく脅える。夜な夜なうなされたり、泣いて起きてしまう。だから、ルークが熟睡するまでキノと見守る。
寝入ったルークを確認してから、俺とキノはそっと寝室を抜け出す。キノと二人きりで過ごす唯一の時間だ。決して、ルークの存在を疎ましく思っている訳ではない。ルークが居てこその俺達だと思っている。
「眞人、こっちへおいで」
「うん……」
キノの大きな掌が俺を包み込む。銀色の長い髪からは薬草の香りがした。
リラックスできる腕の中は、俺にとって唯一無二の場所である。体重を全て預け、愛おしい存在に頬を寄せた。
「一日お疲れさま」
「キノもお疲れさま」
「風呂場でルークが言っていたが、もうすぐ眞人の誕生日らしいな」
こちらの暦はよく分からない。だが、紅葉が色づき始める時期が俺の誕生日だ。日々深まる秋にルークへ呟いたのだった。
「あ……うん。たぶんそう。別に祝って欲しいとかないから。ルークに聞かれただけだよ」
「どうしてだ?愛しい人の誕生日を祝ってはいけないのか」
キノの綺麗な眉間にシワが寄る。
「そんなことないけど、今まで祝ってもらったこと無いし、なんか恥ずかしいから」
「俺は、眞人を生んでくれた母上に心から感謝している。誕生日は、眞人という人間を作り上げた全ての者へ、ありがとうを伝える日ではないのか」
「母親なんて知らない。見たことも無い」
去年は全てに絶望して死ぬ気でいたくらいだ。家族というものには果てしなく縁遠い。決して幸せではなかった人生に、感謝を伝えるという行為はかなり抵抗があった。
家族の話になると、俺の自暴自棄な態度にいつもあやふやで終わる。寂しかった生い立ちを消すことはできないのだ。
俺が幸せだったら、笑って話せるのに。泣くことも怒ることも、素直にもなれない。
そんな俺をキノが抱き寄せ、パジャマのボタンを外し始めた。心が逆立つ時は、身体で解決するのが1番だということを、俺もキノも知っていた。
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