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第28話その後6

リズ爺の荷台は、王宮へ届ける薬草で溢れていた。どれもキノの手によって丁寧に処理されたもので、辺りはキノの診察室にいるような心地よい香りに包まれていた。 「どーこまでーもつづくーこのそらーーー」 上機嫌のルークは、さっきからずっと隣で歌を歌っている。柔らかな風が彼のピンク色の毛を優しく揺らしていた。 「こっちの世界には大分慣れたかな?」 「あ、はい。お陰様で慣れました」 リズ爺は月に数回、キノの薬草を運びに来る。『爺』と呼ばれているが、実際の年齢は分からない。獣人は長生きらしいので、100歳はとうの昔に超えているだろうという、俺とルークの予想だった。 「マナトは落ち着いているから、キノも楽じゃろう。君たちを見ていると和むわい」 「…………楽って?」 「ショウタ……アオノ様が来たばっかりの頃は、跳ねっ返りが強くてな、すぐどっか居なくなるし、暴言は吐くし、手に余ってしょうがなかった。生きた心地がしなかったわい」 「アオノ様が?本当に?」 リズ爺は得意気に鼻を膨らませた。 「あいつはワシが連れて帰ったんだぞ。ワシがいなければ、アデル王は違う者と婚姻していただろうし、双子も生まれなかった。感謝されても足りないくらいら、命の恩人じゃ」 「リズ爺って、何気に凄い人なんだね」 「まあな。もっとワシを敬ってもいいんじゃよ」 「マナト、うやまうってなんだ?」 突然ルークが話に入ってきた。好奇心旺盛な瞳は俺を真っ直ぐ見ている。 「尊敬してくださいってこと。尊敬でも分からないか。偉いねって褒めることだよ」 「そっか。リズじいは、えらいぞ」 「ありがとよ、ルーク。今日は町で何をするんだい?」 「今日は、マナトとおやつを食べるのっ」 「そうか。食べすぎないようにな」 「キノにもおんなじこと言われたぞ」 3人の笑い声が森にこだまする。 アオノ様がこの世界に来たばかりの頃、慣れないことだらけで色々と大変だったとは聞いた。おまけに体質まで変わって、寝てばかりいたらしい。 アオノ様がやんちゃだったなんて、人は見かけによらずだが、どこか安堵する自分がいた。完璧な人などいないのだ。 ラプトルより一回り大きなトカゲが引く荷車は町へ入った。リズ爺にお礼を述べ、別れを告げる。 市場はいつものように賑わっていた。キノに頼まれたものを買い揃える。重いものは、帰る時に回収するので、店頭に預けておく。 今日は買うものが多い。リストと睨めっこをしていたら、気付いた時にはルークがいなくなっていた。 ルークはいつもどっか行く。俺はため息混じりにいつもの場所へ急いだ。

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