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scene.13 Heavenly Gardenー囚われの青い鳥ー

 クリニックから戻ってきた後、アパートへ戻ってきてからすぐに、俺は航太をそのまま招き入れ、さっき瀬名医師から聞いてきたという話を引き出させた。 「…航太。……さっきの瀬名医師との話、どういう事なのか教えてくれる?」 「…え、いや……それなんだけど……。亜咲んちの兄妹って妹だけ?」 「それがどうかした?」 「じゃあ青い鳥の話は?」 「それはさっきクリニックで言ったよね?…昔に作ったのかも知れないけど、今はどこにあるのか分からないって。……俺が退行催眠を受けてる間に、お前が俺から何を聞いたのか……包み隠さず全部話せよ?」 「そうは言ってもな……。お前の中に記憶として全く残ってないものを、オレが勝手に話していいのかどうか…。」 「…航太。俺が何でお前と一緒にあのクリニックへ行ったのか分かってる?……俺だって何も考えてなかった訳じゃないんだ。……俺は今までの自分を変えたい。これからもお前と二人で生きて行く為には、自分の中にある記憶の曖昧さが何を意味しているのかを知る必要があった。……だから敢えて、危険性の高い退行催眠を瀬名医師に頼んだんだ。……このままだと、俺は航太に迷惑しか掛けられない。航太の気持ちにきちんと応えてあげられない。……お前が俺の全てを愛してくれるように……俺もお前の全てを愛してあげたい。……その心も、身体も……全部。」 「……亜咲……。」 「……俺はいつも、お前に抱かれている間の記憶が残らない。……お前に愛されてる事は分かってるのに、その瞬間がすごく気持ち良いんだって分かってるのに……それが全て、俺の記憶の中に無いなんて……そんなのは哀しい……。」  そう言って、俺は航太の身体を思いきり自分の懐に引き寄せながらキスをねだる。 それはこれまでの自分には考えられない事だった。いつもなら、ここで航太が一気に俺を押し倒す事の方が多いのだけど、今日は全く逆の立場だった。…俺の突然の行為に、航太が少しだけ戸惑っているのはその表情を見れば何となく分かる。……だが、そんな事なんてどうでもいいくらい、長く俺の中に眠り続けた焔は止められなかった。 「……亜咲……どうしたの?」 「……黙ってろ。……俺は今、こうしたい気分なんだ」 「……あ、さ……?」 「……航太……。……好きだ……!」  ―― 何ヶ月かぶりに触れた、航太の唇。 温かくて、柔らかくて……とても愛しい唇。  自分のせいで埋められなかった時を必死に取り戻そうと、俺はどこまでも深く……航太の唇を貪るように奪い続けた。 「……航太……。航太……こうた……っ!」 「……亜咲。そんなに必死に慌てなくても、オレ……逃げたりしないよ」 「……航太……。早く……!」 「……分かった。……分かったから……ほら」  航太が俺の身体を引き戻し、そのままの体制から一気に押し倒された。 これでやっと、俺は航太と対等に愛し合える。…そう思ったのもつかの間、航太はどこか遠慮しているように見える。…だから俺は言った。 「……いつものやつ、やらないの……?」 「……オレ、今日はちゃんと亜咲と出来るかどうか分からない……。いつもみたいに亜咲の記憶飛ばしちゃうかも……けど、それじゃ亜咲は嫌なんだよな…?」 「……本当なら、最後までお前を感じていたいけど……。それが駄目だって言うんなら……」 「……分かった。……努力する」 「俺も、出来る限り我慢する……でも今は俺の質問にちゃんと答えて。……さっき、クリニックの瀬名医師から俺の何を聞いたの……?」  俺の真剣なその言葉は、航太を降伏させるには十分だったようだ。 最初は困っていたみたいだけど、俺がどうにも譲らないので諦めたらしく、航太はやっと話し始めてくれた。 「…亜咲がずっと見てた不思議な夢ってさ、実は亜咲の中にあったはずの記憶なんだって。どういう理由かは分からないけど……その記憶を消しちゃったのも亜咲なんだよ」 「……俺が、自分で……?…そうなのか?」 「……うん。瀬名先生が言うには、そういう事らしい。…んで、その記憶を先生が催眠で甦らせてみたら、実は亜咲には双子の弟が居るって事が分かった。……だけど、亜咲はその双子の弟の記憶を全部失くしてる。……だから、それをもっと深く調べようと思ったら、今度は亜咲自身が記憶に飲み込まれそうになって危ない状態になった。……だから先生が引き戻した」 「…俺に……双子の…弟……?」 「……うん。……その時に、亜咲が呼んだその弟の名前が……『飛鳥』」 「……あ…す……か……。」 「そう。……あの時、オレは亜咲の手を掴んでいて、お前の過去の記憶の旅を一緒に感じていたから……すぐに分かった。ああ、この人はあの時の人だって」 「え…!?」 「ほら、昨日フォトスタジオで会っただろ?……利苑って人の横に居た…」  そう聞いて、俺は一気に思い出した。 先日、亜咲の学校の文化祭に行く前に寄ったあのフォトスタジオでの出来事を。 ――『……君は、『亜咲』って名前なのか!?』   『…え、あ……はい。……俺は…藤原亜咲、です』   『……藤原……。……まさか……。』     『…あの、あなたの名前だけ教えてもらっていいですか?』   『……僕は…永脇飛鳥(ながわきあすか)。』 「だから、あの彼が亜咲に似てたのは偶然なんかじゃないんだよ。…だって、亜咲の双子の弟……なんだから…。」 「……そ…んな……」 「……でも、亜咲がどうしてそんな弟の記憶を失くしちゃったのかまでは、オレには分からなかった。…けど、先生はたぶん分かってるんだと思う。……その亜咲の記憶を戻す為に必要なのが『青い鳥』なんだよ」 「……青い鳥……。……『しあわせの青い鳥』、か……。」 「……今は無理して思い出そうとしなくてもいい。……いつかきっと、亜咲がその記憶を受け入れられるようになれば、彼もきっと分かってくれるはずだよ?」 「……うん。そうだね……。」 「……亜咲」 「……な、に……んんぅっ」  俺の唇が、そのまま航太の舌で思いきり塞がれた。 今までまったりと流れていた空気が一気に変わり、航太の熱情に押し流されるように俺は再び組み伏せられるような形になった。  長く航太の身体を受け入れていなかった俺は、彼から与えられるほんの少しのキスだけでもすぐに敏感に反応してしまい、このままでは今までと変わらず、頭が真っ白になって意識がどこかに飛んで行ってしまう。……だがそれでは駄目なのだ。俺は必死に堪えて、航太の想いをギリギリの精神状態の中で受け止める。 「……亜咲、辛い……?」 「……っ……こうた……航太……っ」 「…亜咲。……これ、一度出した方がいいかも……。……辛そうだ」 「……そんなの嫌だ……。……航太、もういいから来て……!!」 「…ダメだ。それじゃ今までと変わらない。……オレだけが一方的になったって、亜咲が辛い思いをするだけだ。……亜咲が本当にして欲しい事は何?」 「……そ、れは……。」 「オレに愛されてる瞬間の記憶が欲しいんだろ?……だったら、やっぱりこのままだと駄目なんだ。……いい?一度出すぞ」 「……っう、あ、あああっ!」  そういうが早く、航太の手が俺の下肢の一番感じやすい所へ伸びてくる。 そしてそのまま俺のものを包み込むように触れて、ゆっくりと動かし始めたのだ。この感覚は、今までに無かったものだった。……最初は優しく、だが時々強く握られて……まるで自分で自分を慰めている時のような手の動きで、航太が俺を導いていく。  どうしてだろう。…俺はいつもこんなに愛されていて、これほどまでに優しい心地よさを与えられていたのに……それが全て意識の外に投げ出されていたんだと知って、俺は自然と涙が止まらなくなった。 「……亜咲…泣くなよ……。」 「……ごめん…っ……でも、っ……んんっ……く、は…あぁっ……!!」  ――俺は、涙を流したまま……だがそれでも確実に、航太の手の愛撫だけで吐精した。 「……亜咲……良かった?」 「……。」  俺は声には出さずに、黙ったまま頷いた。 すると航太は優しく微笑んで、俺の身体を抱きしめてくれる。  いつもの俺なら、もうこの時点で完全にホワイトアウト状態になっていて、航太から注ぎ込まれる最後の愛の証も分からないまま失神してしまうのだけど、今日は不思議とそんな感じにはならなかった。 「……航太……。」 「…うん、オレはまだ……。亜咲。オレのここも、愛してくれる…?」 「…俺、どうすればいい…?」 「……出来れば……舐めて?」  そう言って航太が指し示したのは、自分の下肢の中心だった。 俺はそれを見て、航太が自分を欲している事を理解した。……今までにない彼の誘いに自然と惹きつけられ、俺は彼の指先を追って、僅かに膨らみかけているそこをゆっくりと自分の口の中で吸い、咥えた。 「……亜咲、上手だね……。……すごく気持ち良い」 「……っ…ん……っう……ふ……ぅ…。」 「……ん、良いっ……。オレ、もう達きそうかも…っ」 「……うぅ、んっ、ん……っ」 「…あ…あさ、き……っ…」  航太の濡れて掠れた声が、俺の耳をさわさわとくすぐってくる。……恐らく、快感の限界が近いんだろう。彼のそんな声を聴く事すら初めてだった俺は、それが急に可愛く思えてきて、 思わず顔を見上げてしまった。……同時に、今にもはちきれそうなそこはぐんと大きさを増して、俺の喉に深く突き刺さる。 「……んぐ…っ!」 「亜咲ごめん、もう出るっ……!」 「……んぐぐ……うぅっ……」  焦った航太の声と共に、俺の中へ大きな波が押し寄せた。 そのままどくり、どくりと熱い奔流が注がれていく。…少し苦みの強い航太の吐精が、俺の口の中をねっとりと支配する。その勢いの強さが、これまでの埋められなかった時間を表しているかのようだった。 「……っ、げほっ、げほっ……」 「ご、ごめん亜咲っ」 「……っ、あー…もう……。びっくりしたぁ……」 「…お前のフェラが上手すぎるんだ……。気持ち良すぎてどうしようかと思った……」 「……で、これは?……まだ元気だけど?」 「……仕方ないだろ……。どれだけやってないと思ってるんだ。……全部亜咲のせいだぞ」 「……ま、それもそうか……。……航太……来て」    俺は再び彼の手を掴んで引き寄せ、彼が欲しくてひくついている俺の後ろの孔へと導いて、その身体をぴったりとくっつけた。   「……ねえ、今日の亜咲、すげーエロいんだけど……」 「……言ったろ、こうしたい気分なんだって。……俺もう我慢できない。……航太のその大きいの、早く俺の中に入れて……」 「……亜咲、大丈夫?……そんな事言って」 「……いいから、早く……」 「……あさき……っ」 「…こ、うた……!……っう、あああっ」  ――俺は、航太に思いきり突き上げられた。  穿たれた瞬間の一時的な痛みはあったものの、一度射精していたおかげでその後はすんなりと航太を受け入れ、絡みついた彼の吐精後の精液が潤滑剤のような役目のようになって、航太が動けば動くほどに、俺の身体の奥から生まれる快感の波を呼び起こして締めつけてしまう。 「…亜咲……すごい締まる…っ」 「…あ、あっ……航太っ……そんなにっ……動いたら……ダ、メぇ……っ」 「……亜咲…も、出るっ…達く…っ…」 「…俺、も……っ……あっ、ああっ…航太…っ…こうた……達、くぅっ……ああああっ!!」 「……亜咲ぃ…っ……!!」  ――二人が同時に絶頂の瞬間を迎えたのは、すぐだった。 同じようなタイミングで互いに吐精し、俺と航太はそれぞれに自分の最後の熱情を与えた。  俺の中に注がれる航太の奔流と、俺が自分で吐き出した白濁色の精が航太の腹部でとろりと流れ落ちて、何とも言えぬ卑猥な光景を作り出していた。 「……亜咲。……オレのこと、ちゃんと感じてくれた?」 「……うん……。…俺、とても幸せで……すごく嬉しかった……。」 「……そうだね……。……オレも嬉しかった。……亜咲がいつもより感じてくれたから」 「…この……しれっと恥ずかしい事言うなよな……」    俺はそう言って、航太のおでこに軽くデコピンしてやった。 何だよ…と、まるで口を尖らせるような仕草を見せた彼の表情は、やっぱり年下で可愛い18歳の少年の姿そのものだった。 「……亜咲……大好き……。」 「……バカ。…そういう時には『大好き』じゃなくてこう言うんだ。……『愛してる』って」 「…自分だってさっきはそう言ってたくせに」 「……航太。…お前を愛してる…今までも。これからもずっと。……俺は、お前を愛してる。……航太は?」 「……そんなこと、言わなくても分かってるくせに……。……愛してるよ。……オレも、亜咲を愛してる。……お前は一生、オレの恋人だ…。」  ――そう言って、深い深いキスを交わした後に……俺たちは再びお互いに抱き合った――。          

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