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1:[後]

 完全に勃ち上がった海老澤さんの陰茎は、正直僕より大きかった。身長と同じく、少しの差だったけれど。この先誰にも入れることはないんだろうな、と思うと勿体ないくらいだ。  使ったことも無いのか、綺麗な淡い色をしている陰茎をぐちぐちと擦り上げる。  先走りの量が多いのは彼個人の体質なんだろうか。ただ擦っているだけで派手な音が立つ。あんまりにもぐちゃぐちゃと響くから、海老澤さんは羞恥が堪えきれないのか目の端から涙を零した。 「あっ、う、ぐっ、やめっ、やだ、いっ、ひぃっ、あっ、あッ」 「海老澤さん、あんま声出すと外に聞こえちゃいますよ」  部屋の窓はいつも通り全開だった。夜になって、少し冷えた秋の風が外から入り込んでくる。澄んだ空気に、彼の喘ぎ声はよく通ることだろう。  至極当然な指摘をした僕の言葉を聞いて、快楽に溺れそうになる自分を払うように頭を振っていた海老澤さんがひゅっと息を呑み、慌てた様子で両手を口元へと持っていった。小指と中指が欠けた右手と、親指が削がれた左手が、強く口元を押さえつける。  鼻まで押さえているので息がしづらそうだ。僕はその手を優しくずらしながら、濡れた鈴口に指先を食い込ませる。んぐぅっ、と手の平に潰された声が響いた。  押さえ込んだ両足が暴れている。構わず先っぽを弄りながら、ぬるぬるになった竿を強く擦り上げると、海老澤さんは口元を押さえたまま大きく背を逸らした。 「んっ、ふっ、ゥ、んん゛っ、んぅッ、んー……っ!」  勢いよく吹き出た精液が、僕の指に押し潰されてぶちゅぶちゅと不格好に垂れていく。イってる間も先端を弄り続けていると、海老澤さんの身体が小刻みに痙攣した。  掬い上げると、とろとろの精液が僕の手の平いっぱいに溜まる。もしかしたら、と思って口をつけて啜ってみた。お、予想通りだ。変な生臭さが無くて、濃厚で美味しい。精液って言われなかったら分からないかも知れない。いくらでも飲めそう。 「あ、ぅ……あ、……っ、も、やめ……ぅ、」  多分初めてだろう射精にぼんやりと意識を飛ばしている海老澤さんの股間に顔を埋める。くったりと力の抜けた両足を大きく広げて、その辺に転がっている新聞紙の束を腰の下にあてがって高さを調節してから、僕は固さを失いつつある陰茎をぱくりと口に含んだ。 「ンっ、あっ!?」  もう終わるものだと思っていたらしい海老澤さんが驚いたように身体を強ばらせる。ただ、射精の余韻が抜けきらないのか大した抵抗はなかった。  半分ほど口に含んだだけで苦しいそれを舌で愛撫し、ゆっくりと吸い上げる。陰茎を舐めるのは初めてだったけど、性経験の無い海老澤さんにとっては充分気持ちいいようだった。 「あっ、イ、やめっ、やめてっ、かきぬまっ、だめ、それっ、ひぃっ、あっ、あっ、やめでっ、さきっぽ、すわないで、っ」  なんてことだろう、体液まで美味しい。この人は美味しいところがないんじゃないだろうか。というかこれ、商品化したら売れるんじゃないだろうか。肉だけ食べるのは勿体ないと思う。でも商品名が困るよな。なんか上手いこと誤魔化して売れないだろうか、いや、もしかしたら既にどこかの工場では売り物になっているのかもしれない。僕らが知らないだけで。少し前に大流行した風変わりなスムージーがあったな。みんな取り付かれたみたいに飲んでた気がする。僕も流行りに乗って飲んでれば良かった、味の比較が出来たのに。 「やだっ、いっ、ひぁっ、あっ、アッ、いやっ、も、ッ、だめだからっ、おれっ、やだ、でるっ、ひっ、あ、あっ、すうのだめっ、かきぬまっ、あっ、あぁあッ」  夢中になって吸い上げる僕に、海老澤さんは子供みたいにぐずりながら射精した。本当に美味しい。何かに例えられたらいいんだろうけど、何に例えればいいのかはよく分からない。  もっと飲みたくて中からほじくり出すように舌をねじ込む。海老澤さんは口を塞ぐのも忘れてビニールシートに爪を立てていた。早く次の作ってくれないかなあ、と思いながら垂れ下がる玉を揉む。おかわりがしたい。 「あ、ぅっ、やめっ、やあ、やだ…っ、も、もう、はなして、すきなとこ、たべていい、から、やだ、これ、やだ……」 「好きなところ食べて良いんですか? ほんとに?」  もしかしてそこはちょっと駄目かな、と思っていたところがあったので喜々として尋ねた僕に、海老澤さんは睫を震わせながら弱々しく頷いた。  陰茎以外ならどこでもいい、と言うので、しっかりと念押しして、確かめてから、包丁のケースを取ろうと腕を伸ばした海老澤さんの尻に舌を這わせた。 「はっ、ぇッ!? かっ、柿沼、ッ、何っ、」  腕の伸ばしていた為に丁度寝返りを打つ格好になっていた海老澤さんを転がして、俯せにした状態で尻たぶを開く。薄紅色の襞を思い切り開いて、そこに舌をねじ込む。残念ながら排泄の跡はなかった。尻を高く上げる形になった海老澤さんが、慌てたように僕を振り返る。ざんばら髪の隙間から真っ赤な耳が覗いていた。 「おまっ、おまえっ、何やって、ふざけんなッ、ぁっ、やっ、そこ、っひっ!」 「ひゅひなほこ、たへへいいって、いっひゃじゃないれすか」  ねじ込んだ舌で丹念に肉壁の皺を味わう。これだって食べていることにはなるだろう。許可が出たのだからと遠慮無く貪る僕に、海老澤さんは情けない声で喘いだ。 「ちがっ、ァっ、ひっ、肉っ、いつものぉっ、あ、あっ、これ、これっ、ちがぅ…ッ、あっ、やめっ、ぬるぬるっ、ひ、ぃっ」  膝を立てた両足ががくがくと揺れている。奥の方からじわりと甘い香りがした気がして、刺激するように舌を引き抜き、押し込むのを繰り返す。いつの間にか勃ち上がっていた陰茎を擦ると、きゅう、と穴が締まった。口が二つあったらどっちも味わえるのに。次来る時は瓶でも持ってこよう。  ぽたぽたとシートに先走りを垂らす陰茎を、輪っかにした指で扱く。海老澤さんはもはや身体を支えられないのか、とろんとした目でシートに頬をつけて、か細く喘いでいた。 「あっ、んっ、ひ、っ、や…ッ、いっ、ひぃっ、あ、あっあっ、んひっ、あ、あーっ…、やめっ、ぃっ、ぃくっ、イ――っ!」 「ん、待ってください。勿体ないんで」 「ッひっ、ぁっ……?」  ぐちぐちと出し入れする舌としごき上げる指に追い詰められて絶頂を迎えようとしていた海老澤さんは、不意に手を止めた僕の前で軽く腰を揺すってみせた。初めての感覚に意識が飛んでいるようだから、ねだるような動きは完全に無意識の物だ。  俯せにしていた身体を再度転がし、くたりと横たわる海老澤さんの陰茎を口に含む。意図せず寸前でのお預けの形になっていたからか、海老澤さんは僕が亀頭まで飲み込んだ時点でみっともなく腰を突き上げた。 「んっ、あっ、あぁっ、は、ぁんっ!」  喉奥まで突っ込まれた陰茎にちょっとえずきかけるが、折角海老澤さんが自分で快楽を追っているのだから、と好きに使えるように目一杯口を開く。海老澤さんは完全に蕩けきった顔で、もう出すことしか考えていない動きで、僕の口に股間を押しつける。時折舌で圧迫するように押して上げると、ぐずぐずに溶けた声で切なそうに名前を呼ばれた。答えるように吸い上げる。一際高い声と共に、僕の喉奥に精液が注ぎ込まれた。美味しいので残さず飲む。 「あ…っ、は、ッァ、い、や……も、やだ……っ」 「その割には一生懸命へこへこ腰振ってましたね」  力が入らないらしい海老澤さんの身体を跨いで窓へと向かう。閉めたところで大した防音性能があるとは思えないが、これ以上彼の声を垂れ流すのは僕にとっても辛かった。まあ、この辺りは風俗店も多いし、青姦も珍しくないから、住民も気にしたりはしないと思うのだけど。  ワンテンポ遅れて僕の言葉を理解したらしい海老澤さんは、力の入らない下半身を無理矢理起こすように両腕をついて身体を持ち上げ、なんとかへたり込むくらいの体勢まで持ち直した。涙で濡れた瞳が、僕を睨み付けている。 「怒ってるんですか? 可愛かったですよ、それにとても美味しかったです。流石ですね」 「うるさい、かえれバカ」 「帰りませんよ、まだこれからなのに」 「……は?」  なんとか体勢こそ持ち直したものの本調子にはほど遠い海老澤さんは、対面に屈み込んだ僕を見上げて、逃げるように後ずさった。明確な恐怖が顔に浮かんでいる。あんなに気持ちよくしてあげたんだし、もう少し可愛い顔をしてくれてもいいのに。  蛞蝓より遅いんじゃないだろうかという逃亡は、一メートルもいかない時点で壁に背が当たって終了した。海老澤さんは指の足りない手で縋るように壁をなぞっている。もしかしたらそこに隠し扉でも無いかと探っているような動きだ。 「もっと気持ちよくさせてあげたいんです。海老澤さん可愛いから」 「い、いい、いらない、かえれ、帰って、飯食って寝ろ、そうしろ、それがいい」  壁と僕の間に海老澤さんを閉じ込める。密着するついでに、太ももを押さえ込むようにして両足を大きく広げさせると、海老澤さんは言葉も出てこないのかひたすら首を振った。  閉じようと抵抗してくる足の間に手を伸ばし、先程僕が散々舐めて柔らかくした穴に指を差し入れる。さっき擦ったときの先走りが乾き切っていなかったので、思いの他すんなりと入った。 「うっ、ぁ、や、やめろ、ほんと、なあ、かきぬま、あやまるから、俺が、俺が悪かったから、」 「え? 海老澤さん何か悪いことしたんですか? してないと思いますよ。してないんだから謝らなくて良いです」  きゅうきゅうと吸い付いてくる穴に入れた中指で優しく肉襞をなぞる。こういう場所はひたすらゆっくり、丁寧に扱うべきだ。傷でもつけたら大変だし。  海老澤さんの両手が、押し退けようと僕の肩を掴んでいる。でも、中指をゆっくり出し入れするだけで力が抜けるので抵抗もなく添えているだけになっていた。  舌では届かなかったところはまだ締め付けがきつい。徐々に広げるつもりで中を擦っていると、少し感触の違う箇所を見つけた。出し入れする際に此処を擦ると、僕の肩を掴んでいる海老澤さんの手に力が籠もる。  やっぱり人間が元である以上、構造に大した差異はないらしい。なのにどこもかしこも美味しいのだから不思議なものだ。 「海老澤さん、気持ちいいですか?」 「っ、…ッ、いいわけ、あるかっ、さっさとぬけっ」 「でも此処通ると気持ちよさそうですよ」 「ンッ、ぁっ、あっ、そこっ、やめっ」  ぐり、と前立腺と思しき感触の違う部分を指の腹で押すと、僕の身体で広げられていた両足がびくんっと大きく跳ねた。壁と僕の間に固定されて両足を広げているので、海老澤さんは全てが丸見えで、反応を誤魔化す方法が無い。  どこかあやすような気分で肉襞に指の腹を擦りつける作業を続ける。向きを変えながら丹念に押し広げ、時折指を曲げて前立腺を刺激する。海老澤さんは元からある程度快楽を拾えているようだったが、本来はそういう器官ではないのだから、準備はじっくり行うべきだ。  中指だけで肉壁を捏ね回して一〇分、僕は陰茎を伝ってだらだらと溢れる先走りが意図せず穴へと入り込み、くぽくぽと音を立てるようになった辺りで指を増やした。 「あっ、んっ…あ、あっ、や、かきっ、かきぬまぁっ、ゆび、あぅっ、ゆび、もお、やぁ…ッ」  この時点で、海老澤さんは抵抗を諦めたのか当初よりかなり大人しくなってくれていた。ほとんど僕に抱きつくようにして密着しているので顔が見えないのが残念だが、耳元で甘ったるく響く喘ぎ声のおかげで満足感はある。  未だきつく締め上げてくる穴に、二本の指を出し入れする。嫌と言われてもやめる気はない。これから此処に指より大きい物を入れるのだから、ちゃんと準備をしないといけないのだ。 「んんっ、ぅ、ぁっ、あ、あっあっあっ、やっ、それっ、それぇっ、ひっ、あぁっ、や、めぇっ」  くるりと回すように壁をなぞり、指の付け根まで入れて、更に押し込むようにして小刻みに揺する。指の股の部分で入り口付近も刺激するように擦ると、海老澤さんは腰を揺らして悦んだ。媚びるような声に合わせて前立腺をぐぅ、と押し込む。開かれた足がびくびくと痙攣した。 「あっ、ひっ、も、もおっ、やだ、やだぁっ、それ、おわり、して、っ、イッ、ひぃっ、ッ!」 「もう、ここまで来てまだ嫌がるって……もしかして気持ちよくないですか?」 「き、きもちいっ、きもちいからぁっ、だから、も、やめっ、やだっ」 「なら良かったです、安心しました」 「んっ、イ、あぁぁーッ、やっ、あっ、あぁっ!」  今までの人生で特別下手だと言われたことはないが、言われていないだけで下手な可能性もある。海老澤さんは男だし、イったら分かるから判断はつけやすいが、この方法が間違っていないと確認が取れたのは良かった。  やっぱり前立腺が一番気持ちいいようなので、二本の指で丁寧に捏ね回す。押し潰すように擦り上げるのが一番反応がよかったのでしばらくそれを繰り返すと、僕にしがみつく海老澤さんは蕩けた声で啼いた。 「やめっ、やめてっ、ひっ、ひぃっ、あっ、あっあ゛ッ、かきっ、かきぬまっ、やっ、あっ、それっ、あ、あっあぅっ、ィ、あぁぁっ」  涙交じりの声が響いた瞬間、勃ち上がった海老澤さんの陰茎からたらたらと白い液体が零れ始めた。  先走りまみれだった陰茎の先端から、弱々しく垂れ流すように精液が溢れ出す。そっちを扱いた覚えはなかったので不思議に思って手を止めた僕の肩から、縋り付いていた腕がずり落ちた。 「……海老澤さん?」 「んっ、ぁ、あ……っ、ひ……っ」 「…………もしかして、イきました?」  壁に背を預けるように倒れ込む海老澤さんの顔は涙と涎でぐちゃぐちゃだった。ざんばら髪が張り付いているので掬って耳にかけてあげると、僕の指が触れる度に海老澤さんの身体が小さく痙攣した。半開きの唇から、力の無い喘ぎ声が零れている。  何か言ってる、と思って耳を澄ますと、喘ぎ声に混じって小さくごめんなさいと繰り返しているのが聞こえた。  ごめんなさい、もうやめて、ごめんなさい、と繰り返す海老澤さんの額に軽く口づける。 「大丈夫ですよ、海老澤さんは何も悪くないですからね」  そのまま濡れた瞼と頬に口づけ、此処も許されるだろうかと半開きのままの唇に口づけると、虚ろだった海老澤さんの目がぼんやりと僕を捉えた。んん、とくぐもった声を漏らす唇を軽く食み、無防備な咥内に舌を差し入れる。ああ、やっぱり、ここも美味しい。  溢れ出る唾液を啜り、甘い感触の舌を吸って、余すところなく中を舐る。イったばかりでどこもかしこも感じるのか、海老澤さんは僕が何かするたびに軽く喘いだ。  んっ、んっ、と小さく震える海老澤さんを夢中で味わいながら、ふと気がついて指を動かす。そういえば下の準備がまだ途中だった。 「んぅっ!? ん、む、ぅっ、んんーっ!」  三本に増やした指を動かし始めた僕に、海老澤さんが弾かれたように暴れ始める。あのまま流されてくれていれば良いのに、少し間を空けたせいで意識を取り戻してしまったのかもしれない。それにしたって、そんなに嫌がられると流石に僕も傷つくんですが。  三本指で肉壁を擦り上げ、指で届く範囲は丁寧に解す。どうにも離しがたくて、唇は合わせたまま続けることにした。だって美味しいから。 「んっ、ぃっ、んっ、んーっ、んんんっ! んっ、む、ぅ、ふぅっ、ぁむっ、んんっ」  海老澤さんは泣きながら僕を叩いていたが、とんとんとリズムをつけて前立腺を押し込んであげるとすぐに大人しくなった。広げられていた両足がいつの間にか甘えるように僕の腰を抱えている。指が動かしづらくなったので一旦抜いて、体勢を立て直そうとした僕の股間に、海老澤さんがぐいぐいと腰を押しつけてきた。  角度が変わって離れた唇の間に、いくつも唾液の糸が引く。はっ、はっ、と浅く熱の籠もった呼吸を繰り返した海老澤さんは、とろんとした目で僕を見上げながら甘えるように腰を擦り付けた。 「かきぬまっ、これ…っ、いつ、おわり、なのっ、どぉ、やったら、あっ、は、おわ、んっ、だよぉ……っ」 「え? 終わりというと……えーと、一応、僕が挿入して出したら終わりですかね」 「そう、にゅ……?」 「海老澤さんの中に僕のこれを入れて、僕がイったら終わりです」  そうか、この人普通のセックスってものを知らないのか。もしかして、そのせいで過剰に嫌がっていたのかも知れない。食用の人間って性行為とかしないだろうから、海老澤さんからしたら突然訳の分からない行為をされて怖かったのかも。  もっと優しくしてあげないと駄目だな、と再び穴を解す準備をしようとした僕は、そこで勢いよく股間を掴まれて肩を跳ねさせてしまった。うわ、びっくりした。  海老澤さんの手が僕の股間を擦っている。最初に僕がしたことの真似をしているのか、手つきが僕のやり方にそっくりだった。 「ちょっと、海老澤さん? いいですよ、そんな、全部僕がやりますから、」 「うる、さいっ、はやく、はやくこれ、いれてっ、おわり、しろっ、これっ、あっ、や、なに、おっきい、」 「海老澤さんの方が大きいでしょ、変なお世辞やめてください」  お世辞だと分かってても嬉しくなっちゃうじゃないですか。少し照れた気持ちで海老澤さんの手に陰茎を擦りつけると、海老澤さんはびくりと身体を震わせて、じっと僕の股間を見つめたまま、軽く唾を飲んだ。  真っ赤になった顔でじっと見つめてくる海老澤さんの視線に煽られてか、なんだかいつもより大きくなっている気がする。 「ん、海老澤さん、手、きもちいです」 「え、あ、そ、そう、えっと……か、柿沼……その、これ、いれたら、おわりなんだよな」 「ええまあ。でも、まだ入らないでしょうから、もう少し慣らして、」 「い、いい! もう慣らさなくていいからっ、はやく、これ、これ早く入れてくれ……っ」  なんだか慌てた様子で僕の言葉を遮った海老澤さんは、扱き上げた僕の陰茎の先に自分の穴を押し当ててきた。押し当てたものの、自分でも入るか不安らしく、そのまま真っ赤な顔で緊張したように固まってしまう。  潤んだ瞳が、恐怖と期待を滲ませて視線を注いでくる。海老澤さんを大事にしたい気持ちはあったが、そんな目で見られたらもう我慢は出来なかった。 「じゃあ、入れますよ」 「うっ、あ、や、やっぱり、待っ」 「ええ……それはないでしょ」  自分でそこまで誘っておいて直前で『待って』って、アホですか。待てるはずが無い。  濡れた襞が吸い付くようにして鈴口を包み込んでいる。ぴたぴたと誘うように触れてくるそこを、まずは指で解したところまで押し広げていく。ゆっくりと、万が一にも傷をつけないように。 「あっ、あ、っゃ、なにっ、ひっ、これっ、あぁうっ、ひ、――――ひぃっ♡」  本当はもっとゆっくりしたかったのだけど、纏わり付いて締め付けてくる襞に我慢が出来ず押し込んでしまった。腰を抱えるようにして僕の上に乗せた海老澤さんが、驚いたのか縋るように抱きついてくる。嬉しいけど動きづらいので、少し向きを変えて畳の上に押し倒した。丁度、新聞紙で出来た抜け殻の上に背をのせてしまって、丸いドーム状のそれがくしゃりと潰れる。  やっぱり布団を買ってあげよう。思い切り突き上げたいけど、やったら色々痛そうで手加減しないといけない。  根元まで入れた状態で、歯を食いしばりながら動くのを堪える。海老澤さんの呼吸に合わせて中が動くものだから、優しくしようって気持ちがどんどん肉壁にすり潰されていく。 「はっ、ぁ、んっ……ッ、かきぬまっ……」 「なんか、一生分名前呼ばれてる気がしますね」  めちゃくちゃに突き上げたいのを我慢して、奥の方にねじ込むように揺する。根元から先端まで擦り上げて貰う方が好きだけど、これでもイけないことはない。それに、強く動かない方が海老澤さんも辛くないだろう。 「そういえば、海老澤さんって、下の名前なんていうんですか?」  片足を持ち上げて、奥の奥まで擦り付けるようにして押し込む。ゆっくりとした間隔なのに、海老澤さんがぎゅうぎゅう締め付けてくるからすぐにイっちゃいそうだった。何だか、僕が食べられてるみたいで興奮する。  気を逸らす為に世間話の一つを口にすると、海老澤さんは小さく喘ぎながら緩く首を振った。 「な、まえ、とか、ない……んっ、ぁ、あ…っ、はあ、えびざわ、ってのも、ここにいた、やつの、なまえだ、っ……おれのじゃない」 「あ、そっか。元から戸籍も無いんですもんね」  そりゃそうか。表札に海老澤と書いてあるからみんなこの人を海老澤さんと呼んでいるけども、食肉用の人間にわざわざ名前なんてつけないだろう。 「すみません、変なこと聞いちゃいましたね」 「……べつに、いまさら、だろっ、ぁ、ンッ、柿沼、それっ、やめ、ァ、っ」  ぐりぐりと奥の方を擦って、少し呼吸が落ち着いたので腰を引いて上の方を擦る。やっぱり前立腺を擦った方が気持ちがいいみたいだ。角度を変えて押し込むようになぞると、海老澤さんが逃げるように腰を引いた。 「あっ、ぅ、んんっ、ァ、はっぁ♡ だ、やめっ、なんかっ、へん、んうっ♡ く、ぁうっ」 「変ですか? どこか、いたいとか?」  大丈夫かな、と思って止まってみると、やめるな、と甘い声が強請ってくる。広げられた足が僕の腰に回り、言葉の通り催促するように腰を押し付けられた。さっきまで逃げてたのになあ、不思議な人だ。  中指でそうしていたのと同じように、今度は陰茎で中を擦り上げる。ゆっくり、押し潰すように動いていたのだけれど、段々我慢が効かなくなって強く打ち付けるようになっていく。 「うっ、んっ、あうっ、あっ、あ、ッ、かきぬまっ、それっ、きもちいっ、ぁ、ああぅ、あっあっあ、ぁひっ♡」 「ん、そうですか、よかった、っ…」  たまに蕩けきった声が上がるようになってるから、ちゃんと気持ちよくなってくれてるんだろう。情けないことに僕はどんどん余裕がなくなっていて、もう殆ど気遣いなく自分の快楽だけを追い始めていた。  ぬるぬるの壁が締め付けてくるのが気持ちよくて、ぎりぎりまで引き抜いては奥まで入れて、更に奥まで求めて隙間なく入るよう、体重をかけてみっちりと穴を埋める。そのまま揺すると持ち上げた足がぴんと伸びて痙攣するのが分かった。 「あ゛っ♡ ひ、はぁっ、あ、あ、っ、おくっ、だめっ、ひ、ぁっ、あ、あっ、かきぬまっ、かきぬまぁ♡」 「海老澤さん、中、すごい、気持ちいいです、ね」  気づけば夢中で腰を振っていた。終盤はもはや海老澤さんの様子を伺う余裕もなくて、ただぼんやりとした意識の中で甘く蕩けた声だけを聞いていた。 「んっ、ひ、あっ、あっ♡ かきぬまっ、だめ、やっ、ひぃ、っ、はげしっ、ァ、アッ、んっ、んーっ、ぁ、っひぎっ、やめっ、でる、またでるっ、へんなのっ、イッ、んんッ、もう、やっ、あっ、あっ♡ あ、あっ、でるぅっ、あひっ、あぁあっ♡ あっ、あッ? なにっ、や、やめで、っ、でたのにっ、おれっ、あふっ、ひいっ、まっで、かきぬまっ、とまっ、とまって、やっ、あっ♡ あっあッ、んぁっ、はっ、あふっ、ひいっ♡ んっ♡ いっ、イッ、ひぃっ、あっ♡ やめっ、やべでっ、かきっ、いっ、ひっ、————〜〜〜っっ♡♡♡」  僕がふと我に帰った時には、海老澤さんはぐったりと横たわって気を失っていた。確かめると息はあったので、濡らしたタオルで体を拭って、中の物を掻き出してから新聞紙に包んでお暇した。家を出る時には長い体を丸めて、穏やかな寝息を立てて寝入っていたので大丈夫だろう。  手持ちがなかったので『今度お礼に来ます』とメモ紙を置いておいたのだが、その後、僕は三ヶ月の間海老澤さんに顔を見せて貰う事が出来なかった。  どうやらかなり怒らせてしまったらしい。ブザーを鳴らしても扉を叩いても呼びかけても出てくることはなく、ひたすら扉越しに「くたばれ」と呪詛を貰い続けて三ヶ月、ちょっと大きなプロジェクトのせいでくたくたのへとへとになった僕が泣きながら海老澤さんの肉を求めに行った時、ようやく扉の隙間から切り分けた肉を渡してもらえた。  寂しいことに、僕と海老澤さんの心の距離は再び開いてしまったらしい。出会ったばかりの頃のような冷たさだった。悲しくて残念な気持ちでいっぱいになったけど、海老澤さんの唐揚げを食べたら元気が出たので、また一からアプローチしていこうと思う。

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