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第36話 風紀委員室(2ヶ月前、16)
「着いたよ。声ださないでね」
オレはこくんとうなづいた。
龍ヶ崎はガツッガツッと風紀委員室の扉を蹴ったようだ。
オレを抱き上げていて、両手が使えないから、仕方ないけど。
けっこう大きな音がしたから、遠慮なしに蹴ったもよう。
苛ついたら、モノにあたるタイプなのか?
ガチャリとドアが開いた音がした。
「うちのドアを蹴る不届き者は誰だよ?」
険のある声がした。
「なんだ、龍ちゃんか。……その子、誰?」
さっきと同じ声。
「ラブ・キャンディの被害者」
と、龍ヶ崎が答えると、室内がざわついた。
「え? マジで?」
また、同じ声。
「仮眠室借りるから」
と、龍ヶ崎。
そして歩き出した。
何度か来たことがあるけど、風紀委員室に仮眠室なんかあるんだ。
知らなかった。
確かメインルームから、いくつか扉があったから、そのどれかだ。
「はい、はいっ! おれも手伝う。他にも誰かに頼まなきゃ」
新たな声。
なんか嬉しそうに言ってるのが、二人目だ。
「いらない。ぼくひとりでいいから」
と、龍ヶ崎は歩きながら断言した。
「一人って。それ、ムリムリ。赤い飴ちゃんだよ? こっちが廃人になるわ」
一人目が、なんか怖いことを言ったような……。
「広明が一人でやるって言ってんだ。好きにさせてやれ」
はい、三人目。
この人は、オレの知り合い。
しつこく、しつこく、とっても、しつこく、オレを風紀委員に勧誘してた先輩だ。
神田良樹 さん。
3月に代変わりしたから、前年度の風紀委員長だ。
「神田さんは引退したんだから、口ださないでよ」
これは二人目。
もう、何人目とか、ややこしい。
頭からジャケットをかぶっているから、目隠し状態と同じで耳からの情報でしか判断できないのが、つらいとこだ。
「幸助 、ドア開けて」
と、龍ヶ崎が立ち止まり、指示した。
一人目?
二人目?
それとも四人目?
ガチャって、ドアが開いた。
「必要なもんあるか?」
と、神田さん。
「2人分の飲み物と食べ物」
と、龍ヶ崎。
「マジでこもる気?」
と、一人目。
声が近い。
一人目が幸助なんだ。
「被害届と調査書、ちゃんと提出しろよ」
と、神田さん。
「ところで、その子、誰?」
と、一人目の幸助。
「触んなっ!」
と、龍ヶ崎がどなった。
え、なんで?
「うわっ、怖っ! ちょっとぉ、息ぐるしそうだったから、楽にしてあげようとしただけじゃん。かわいそうに、ふるえちゃってるじゃん」
と、二人目。
こいつもそばにいたようだ。
じゃあ、幸助って、何人目?
「邪魔」
龍ヶ崎はそう言ったあと、歩いて、すぐに立ち止まった。
「ドア、閉めて」
と、龍ヶ崎。
「ご自分でどうぞ」
これは、一人目。
龍ヶ崎は、また歩き出して、止まった。
そして、オレはとても丁寧にベッドに寝かされた。
と、思う。
本当に静かにそっと降ろされたから。
靴を脱がされ、ゴトンゴトンという音がした。
オレの靴はどうやら放り投げられたようだった。
頭を覆っていたジャケットに手を伸ばしたら、その手をつかまれ、
「まだ取るな」
と、龍ヶ崎。
龍ヶ崎から手を離され、気配が遠ざかった。
そして、バタンとドアが閉まった音がした。
次に聞こえたのが、
ガチャリ、
という鍵がしまった音。
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