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第48話 お付き合いのルール(2ヶ月前、28)
「……やだ」
と、オレ。
「じゃあ、生徒会でもいい。頼むから、でかい組織に組み込まれておけよ。ガードするにも限度があるからな」
「守られなくても大丈夫だって。いつも言ってるのに」
頭上からため息がこぼれた。
「今回は此花みたいな小さいやつだったけど。ガタイのいいやつに複数で襲われたら、こんなもんじゃすまないよ。媚薬じゃなくて覚醒剤なんか使われたら、どうすんの?」
「……さすがに、そんなもん手に入らないでしょうが」
神田さんはドン引きするようなことを言ってきた。
「簡単にネットで手に入るし。街に出ればすぐに買えるよ。……世間知らずもいいとこだな」
神田さんは、心配性だからおおげさだ。
「仮にだよ? 持ってたとしても、人として使ったりしないでしょ?」
「あるもんは、使いたいと思うのが心情だ。珍しいもんは特に使いたくなる」
ふつう、使わないって。
でも、オレのふつうであって、他の人のふつうとは異なるものか?
少し首をかしげて、あいづちをうつ。
「……そんなもん?」
「切羽詰まっている場合は、抑えがきかなくなり、理性なんかなくなるからな」
と、前年度末で引退した風紀委員長は言い切った。
理性がぶっ飛ぶのを体験した。
享楽に溺れる快感も怖さもしったばかり。
あらぬことを口走り、正気じゃ絶対にしない痴態をさらした。
「……心配してくれるのはわかるけど、オレがそんな対象になるとは思えない」
「悠人おまえ、親衛隊結成の件をずっと断ってるだろう」
急に話題を変えられた。
神田さんを仰ぎみた。
「だって、面倒くさいし」
「おまえのそのなげやりな態度が、悪循環を産んでるんだよ。個人個人の好意を相手にするより、集団にしてまとまっているほうが管理しやすい」
「管理って……」
顔をあげているのに疲れて下をむいた。
「もっと自覚しろ。おまえは生徒会の連中より、人気度上だから」
オレは思わず、吹き出した。
「ないない。それはありえないから。神田さん、話しもりすぎ。歩いてるだけできゃあきゃあ言われたりしないし」
「それは、おまえが騒がれるのを嫌うからに決まってるだろうが」
「はぁ? 痛っ!」
神田さんに肩をつかまれて、体を反転させられた。
膝にのせられ、むき合う格好になった。
「おまえのファンはおまえのことをよくわかっているよ。周囲が気をまわしてくれている。本人は無頓着だから、気づかないけどな」
「……」
「おまえのセフレのローテーションが、2ヶ月ってしってたか?」
「……セフレじゃない」
顔があげられない。
まともに神田さんの顔を見るのが、怖い。
「相手から誘われて付き合って、相手にふられるのは、なぜだと思う?」
「……オレに愛想がつきるんだろ?」
頭に大きな手がおかれ、ぽんぽんとなでてきた。
「2ヶ月がお付き合い期間なわけ。別れ話を持ち出して、おまえが拒否ったらお付き合いを延長できる。けど、別れを容認した時点で終わり」
オレは呆然と顔をあげた。
「……なに、それ?」
頭をなでている手を、オレは払いのけた。
「『桜井悠人とお付き合いするルール』っていうのが、あるんだよ」
「……ルールってなんだよ? オレはゲームの対象か何かなわけ?」
「そんなんじゃないよ。彼らはおまえと遊びで付き合っていたわけじゃない。本気で好きだけど、本気にならないおまえから、去っていくルールを作っただけだ」
オレはうなだれて、吐き捨てた。
「……なんか、オレって、最低じゃんか」
「本命をつくれば、いいんだよ」
本命と言われて浮かんだ顔は、
ある人の顔で。
初めて好きになった人には、
ちゃんと想い人がいて。
オレはただの暇潰しの相手でしかなくて。
まぁ、3年も前に終わったことだし。
でも、まだ覚えているあの顔。
自分の女々しさに嫌気がした。
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