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第49話 電気はつけないで(2ヶ月前、29)

「……好きだから、付き合ってたんだけどなぁ」 と、オレ。 「去りぎわに、引き留めるほどの気持ちはなかったんだろ」 「泣いて、すがるのがいいわけ?」 「おまえに、それができるとは思えないよ」 「……しばらく自粛する」 「はぁ?」 眼鏡の奥の目が嫌そうにすがめられた。 「……なんですか、その顔?」 「それは、しないほうがいいぞ?」 「なんで?」 「おまえからチャラさが抜けると、桜井悠人じゃなくなるじゃん」 「……チャラくない」 神田さんの肩をボスボスとたたいてやった。 「こら、暴れんな。落ちるぞっ」 神田さんに抱きとめられ、みあげられた。 身長差があるから、ふだんなら、みおろすことなんかてきない。 ふつふつと優越感がわきあがる。 声をだして笑うと、 「……キモ」 「こうやってみおろすのって、気持ちいいね」 「見ているだけで気持ちいいなんて、とんだ変態さんだな」 神田さんの顎に手をそえて、上をむかせた。 「……おまえは。いったい、なにしたいわけ?」 「こんなふうに、されたことないでしょ?」 「あるよ」 「えっ、そうなん?」 「対面座位じゃん、これって」 「は?」 なに、言ってんの、この人? エッチのときの体位を言っちゃってるよ? そんな要素、なにひとつみあたらないんだけどね! 「真っ裸で、乗りあがってきて、大胆なお誘いだなぁと思ってたんだが」 「ち、違うって」 これは、ちょっとしたいたずら心だ。 嫌がらせにすぎない。 あわてて、神田さんの膝から降りようとしたら、 「い″っ」 腰に激痛がはしり、神田さんにしがみついた。 腰をささえられ、 「だいたん~。俺を誘って、なにして欲しいの?」 眉尻をさげて、神田さんをみおろしたら、 「顔、赤いぞ、悠人。俺に発情しても相手してやんないよ?」 「……間に合ってます」 ていうか、暗くて顔色なんかわかんないくせに。 「そうかあ?」 オレの首に神田さんの指先がふれ、 「くぅ……」 喉が鳴った。 「悠人くん、びんか~ん」 神田さんはちゃらけながら、長く節ばった指を喉元から胸元まで、ゆっくりとはわしていく。 「神田さんっ……」 「なに?」 「なに、やってっ……んですか?」 ただ、さわられているだけなのに、変に息があがってしまう。 「ねぇ、電気つけていい?」 と、なんかしらないけど、神田さんが甘い声できいてきた。 「ダメっ!」 「顔、見たい」 「やだ」 「いいじゃん、別に」 「もう、おりる。腕、離して」 腰にまわった神田さんの腕を外すために、手でつかむが外れない。 むしろ、力強く抱きしめられた。 「神田さんっ!」 「切羽詰まった声だしちゃって、かあいいなぁ。乳首たっちゃってるし」 「たってないしっ!」 わめいたら、乳首をさわられ、 「わっ!」 でかい声がでた。 神田さんの手をはたき倒した。 「色気ねぇなぁ」 と、笑いながら言われた。 「あるわけないでしょ」 と、オレは吐き捨てた。 と、ほぼ同時にドアが開いた。

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