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第55話 風紀委員二人と一般人(2ヶ月前、35)

「……なに、代筆って?」 と、オレ。 「被害者が肉体的に損傷していたり、精神的苦痛等なんらかの理由で届けを書けない場合に、風紀委員が変わりに書いて提出することができるんだよ」 と、神田さんが説明してくれた。 衝撃的な出来事で、精神的ダメージもあった。 それよりも醜態をさらしたことの方が、ショックが大きかった。 けど、 「……頭も体も悪くないけど、オレ」 自分で書ける。 でも、書きたくない。 「なんでもかんでも、言うこときいてちゃあ、風紀委員会が存在してる意味なんてないじゃん。学園の規律を守り、秩序を保つのが俺らのお仕事ですから」 と、神田さん。 「……だからって、ムリヤリ書かさなくても。一番つらい立場の当事者の意見なんか、ちっとも聞いてくれないんですね」 と、オレは食い下がってみた。 「嫌われて、なんぼのもんが、風紀委員」 と、神田さんに一蹴された。 「……そんな組織にオレが入っても、なんの役にもちませんよ」 と、オレは素直な気持ちを口にした。 「役立たずでも、のばらしにするよりはまし。要注意人物を監視下に置けるからな。おまえの仕事ぶりには、期待してないから委員会室に座っているだけでいい」 と、神田さん。 けっこう、ひどい言われようだ。 神田さんって、本当はオレのこと嫌いなんじゃないの? 「……そんな顔するなよ。オレ個人は、おまえのことはかわいくくて仕方ないけどな」 と、神田さんは少し困った顔で笑った。 「……なに、それ?」 と、オレは神田さんから視線をはずした。 神田さんは、オレの顔をつかんでいた手をはなした。 「問題おこされて、学園を乱されたくないんだわ、俺たち」 と、神田さん。 「俺たち?」 と、オレ。 「広明は風紀副委員長。俺は前年度の風紀委員長。残念だけど、不正を容認できる立場じゃないんだよ」 と、神田さん。 「うぅ」 と、オレはうなった。

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