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 先生の見送りに、僕は先に立って玄関を潜った。  今日の寒気は穏やかで、春めいて暖かかったが、先生が言うには明日からの冷え込みは厳しくなるとのことだ。火鉢の炭の、補充をしておかなければ。  先生と連れ立って本宅迄の道を歩きながら、僕はつらつらと考え事をしていた。 「きみ」  先生が、僕に話しかけてくる。 「はい」  僕が顔を上げると、先生が足を止めた。僕もつられて歩みをやめ、男を見上げた。 「彼が一年前に花吐き病に罹ったというのは、本当なのだろうか?」  「はい」  僕が頷くと、先生は訝し気な表情になり、顎をさすった。 「去年の冬は、彼は殊更体調を崩していて、外出などはままならなかった。それなのに……彼は一体、?」  独り()ちるように、先生が疑問を口にした。   「旦那様は、こころの弱い者が罹る病気だ、と言っていましたが」 「それはきみ、誤解だよ。最初に発症した人物が誰で、どこでどのように患ったのかは残念なことに不明であるけれど、花吐き病という病は、吐いた花に触れて初めて感染するということは、もはや明白なことだ。彼が、どこで感染者と接触したのか……もしかするとこの家には、彼以外の患者が居るかもしれないね」  医者は、そう言って帽子をかぶり直すと、 「見送りはここでいいよ」  と言って僕に手を振って、大股で帰路についた。

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