6 / 7
5
先生の見送りに、僕は先に立って玄関を潜った。
今日の寒気は穏やかで、春めいて暖かかったが、先生が言うには明日からの冷え込みは厳しくなるとのことだ。火鉢の炭の、補充をしておかなければ。
先生と連れ立って本宅迄の道を歩きながら、僕はつらつらと考え事をしていた。
「きみ」
先生が、僕に話しかけてくる。
「はい」
僕が顔を上げると、先生が足を止めた。僕もつられて歩みをやめ、男を見上げた。
「彼が一年前に花吐き病に罹ったというのは、本当なのだろうか?」
「はい」
僕が頷くと、先生は訝し気な表情になり、顎をさすった。
「去年の冬は、彼は殊更体調を崩していて、外出などはままならなかった。それなのに……彼は一体、どこで感染したんだろうか?」
独り言 ちるように、先生が疑問を口にした。
「旦那様は、こころの弱い者が罹る病気だ、と言っていましたが」
「それはきみ、誤解だよ。最初に発症した人物が誰で、どこでどのように患ったのかは残念なことに不明であるけれど、花吐き病という病は、吐いた花に触れて初めて感染するということは、もはや明白なことだ。彼が、どこで感染者と接触したのか……もしかするとこの家には、彼以外の患者が居るかもしれないね」
医者は、そう言って帽子をかぶり直すと、
「見送りはここでいいよ」
と言って僕に手を振って、大股で帰路についた。
ともだちにシェアしよう!