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日置くんはコスってほしい2

トイレに行くと入り口付近にコスプレの女の子が数人たまっていた。 けっこう可愛い子が多い。 ちょっと露出が過ぎる子もいる。 いや、体型の問題で結果露出範囲が広がったのかな。 「ねえ」 おっ、超かわいい子に声をかけられた。 「イブちゃんって、何?レイヤーじゃなく、単なる女装男子?」 「は?違うけど」 予想外の強い口調に怯んでしまった。 「てか、思いっきりサツマのこと狙ってるよね?」 「サツマ…いや、ない、ない、ない、ない」 「うそっ!どう見ても狙ってる。何あのわざとらしいツンデレ。見ててムカつくんだけど」 ……う。それを言われると。 確かにムカつくツンデレやってました。 でも衣装を貸してくれた人が、アニメの設定では『イブ』が主人公だけにはツンデレだって言うから。日置の反応もいいし、つい…。 「ごめん気をつける。ひお…サツマがノってくれるから、面白がってやっちゃったけど、別に狙ってるとか、そんなじゃないから」 「化粧でどうにか誤魔化してるけど、どうせイケてない非モテでしょ?」 「まぁ…いっ、いや、それ関係なくないか?てか、イブのコスだからサツマがオレに喰い付いてるだけだし、アンタもイブをやればいいんじゃないの?」 「バカにしないでよ。そんなことでキャラ選びできるわけないでしょ?」 よくわからないけど、なんかプライドみたいなもんがあるようだ。 さらに怒らせてしまった。 「えーっと、サツマはイブがお気に入りってだけだし、オレはサツマを狙ってないし、そもそも男同士なんで心配いらない……」 「男同士だからよ!サツマには、エンコくんっていうお似合いのレイヤーがいるの!二人の間に割って入らないで!」 「えっ!?アイツ、男と付き合ってんの?」 オレの言葉にその場が少しざわついた。 「……ほぼ付き合ってるようなものよ」 それ付き合ってんの?付き合ってないの?どっちだよ。 「ま、その、割って入るつもりもないし、どうせ今日だけだし、気をつけるし…トイレ行かせてもらっていいかな」 どうにかトイレに行ってバスに戻ると、オレの席の隣に日置が座って、満面の笑みで手を振っていた。 うっ。あそこに座るしかないよな。荷物があるし。 「何やってんの。サツマの席はここじゃないだろ?」 「バスに戻ってて…って言うから、隣に来いって意味かと思ったんだけど」 「そんなこと、言うわけない…」 コイツを避けようと強めの口調で言ったけど、これって…単にツンデレキャラを作ってるだけだと思ってるんじゃ…ああ…やっぱすげぇ嬉しそう。 「サツマ、ルールはちゃんと守らないと」 「別に問題ないよ。スタッフとここの席だった人に了承もらったし。次の廃墟の撮影、すごく楽しみだね」 なんだかんだ言ってる間に、バスは次の目的地に走り出してしまった。 「『イブ』には廃墟とか合わないよね。こんな元気な服だし」 「まさか!撮り方次第で色々工夫ができるんだ。俺がイブちゃんのこと綺麗にとってあげるから」 そう言われて、オレもついコイツに綺麗に撮って欲しいなんて思ってしまっていた。 日置はすでに廃墟に立ったイブを頭に描いてるんだろう。 うっとりとした顔でオレを見つめる。 けど、待て。 コスプレしてたって、オレはオレだ。 綺麗に…とか、ならないだろう。 「サツマさっき撮ったイブの写真、見れる?」 日置の目がパッと輝いた。 カメラのモニタで見せるのかと思ってたのに、取り出したのはタブレットだった。 そしてちょいちょいと操作をするとパッと画像が開く。 大木に寄りかかるようにして、こちらを見下す少女。 光の中に淡く浮かび上がってるように見えるけど、コントラスト高めで鮮やかだ。 画面の上の方で生い茂る葉の隙間から光がキラキラ溢れていて神秘的ですらある。 …え、なんだこれ。プロみてぇ。 てか……。 「イブ?」 「可愛いし、綺麗だし、妖精みたいだ」 「これ、イブ?」 「もちろん。さっきご神木のところで撮ったやつだよ」 自分なんだろうけど、全く自分に見えない。 普通に女の子だし、むしろ可愛い。 おかしい……。 さっきトイレの鏡で自分を見たときは、こんなに可愛くなかった。 「加工した?」 「まさか!撮ったばかりだよ?」 足には多少男らしさが残ってるけど、そう思って見なければわからない。 ……写真、すげぇ。 バスの狭いシートのあいだにある自分の足を見た。 ……毛は剃ったけど、普通に男の足だ。 いや、でも結構綺麗な足なのかな。 「イブちゃん表情を作るのが本当に上手いから。ほらこれ見て、クールに見下すような表情がいいよね」 多分さっき日置が寝転ぶような体勢で撮ってたヤツだ。 …ポーズを取りながら『ふふふ、オレの前に這いつくばれ日置…!』なんて考えてた。 あれはパンチラ狙いじゃなかったのか。 あ…やっぱスカートがひらめいてキワドいのもあるな…。 まあ、別に中に見せパンとかいうの穿いてるけど。 結構な枚数撮ってる。 それを日置が指で送っては、気に入っているものをオレに見せる。 ホントすげぇ綺麗な写真ばかり。 って…あれ? メチャ焦って何枚か送った。 ちろっと日置の顔を見たら、あきらかに目をそらした。 タブレットの上を滑る日置の手をキュッと握る。 「さっきのなぁに?」 と聞いたら、気まずそうに目を彷徨わせて、握られているのとは反対の手で写真を戻す。 「た、たまたま…わざとじゃない…」 ………やっぱパンチラ撮ってんじゃねぇか。 たまたまとか言いながら、このあたりだけでもパンチラが5〜6枚はあるぞ。 「なんでマーク付きになってんの?」 「それは…あーとーで、消さなきゃな…と思って」 あきらかに苦しい。 バスに乗り込んですぐパンチラ写真チェックって…コイツ…イタいな。 うおっっっ。 握ったままだった日置の指に、手のひらをくすぐられた。 ゾクッビクンと手が跳ねる。 ぱっと見ると、日置がイタズラな表情で笑った。 う…ちょっと男のオレでもドキッとするようなチャーミングな笑顔だ。 くそっ。 変な誤摩化し方しやがって。 「どうせ、見せパン穿いてるから大丈夫だよ」 周りに聞こえないよう、ちょっと耳に顔を近づけて言うと、日置がクッと目をむいた。 ……なんだろう。すごく嬉しそうだ。 普通、ガッカリするところじゃないのか?

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