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日置くんはコスってほしい3

バスで十数分ゆられて、廃墟に到着した。 廃墟と言っても明治時代に建てられた歴史的な価値のある工場と倉庫で、あえて廃墟状態で保全されている。 最初に侵入不可エリアや、注意事項なんかの説明があって、みんなそれぞれ移動して行った。 当たり前のように日置がオレを連れて撮影に向かう。 さっきの子達の言ってた事が気になって、ちょっと一緒に行くのを嫌がってみたけど、単なるツンデレと解釈されてしまった。 石とレンガで造られた古い工場の中を歩くとホコリが立つ。 けど、ホコリ舞う中に光が射すのが、幻想的でちょっといい雰囲気かもしれない。 工場の端の工場長室のようなところに、古くて立派な木製の机があった。 重厚なつくりで、時代ものの映画で陸軍大将とか大企業の社長が両肘着いて『うむ』とか言ってそうだ。 錆びた窓枠に古いガラス。 室内は昔はかなり綺麗だったんだろうけどやっぱりボロボロで、壁紙が剥がれてたりして一人だったらちょっと怖くなってしまいそうだ。 日置がタオルで机のホコリを払うと、オレをその上に座らせた。 そしてすぐにカメラを構え、一枚撮ってカメラのモニタを確認すると、立ち位置をかえてもう一枚。 さらに確認してカメラの設定をあたっている。 日置がオレに視線を戻すと、合図でもするようにニコっと笑ってから撮影が開始された。 「サツマ、少し動いた方がいい?」 「そうだね、少しポーズをつけてくれるかな?『来て』って言うみたいに両手を前に出して……」 言われるままに手を出すけど、イマイチ締まりがない気がする。 試しにちょっと女の子らしくワキと肘をしめ気味にしてみた。 「こう?」 「うん。……っあ、今の顔かわいい」 「今の?どんな?」 「気にしなくていいよ。そのちょっとしかめた顔もかわいい」 「えー。なんだそれ」 「ふふっ。その『なんだそれ』もかわいい」 「もう、テキトーだな」 「うん、適当でもかわいい。座ったまま好きにポーズをつけてみて」 「どんなの?」 「ん〜、ちょっとかわい子ぶった感じかな?」 とりあえず、適当に両手を頬にあててみたり、小首をかしげて頬にピースをあてたり、上向いたり下向いたり。 座り方も片足を机の上に上げたり、すこし足を開いて両手をその間についてみたり。 足を机の上にあげて両膝抱えたら、日置が少し目を彷徨わせてからシャッターを切った。 ハッと気付いてスカートを押さえる。 クソッ。スカート慣れしてないからな…。 「またパンチラ撮っただろ」 オレがきつめに言っても気にせずに、日置はシャッターを切り続けてる。 「たまたま…パンチラになっちゃうのもあるかもしれないけど…」 テキトーな返事をしながら撮影に必死。 どうやら日置的には、両膝を立てた状態で足の間から手を出してスカートを押さえたこのポーズがツボらしい。 「イブちゃん、机の上に膝立ちになって窓の方見てくれる?」 言われるままに窓をみて、振り返ってと何パターンか写真を撮られる。 今度は机の奥の角に手を当ててと言われたので、手をついて机の角をナデナデ。 ………なんだこれ? と思ってたけど……四つん這いのこの体勢…。 「サツマ!またパンチラ撮ろうとしてる!?」 ぱっとお尻をおさえて振り返ると、またシャッター音が増えた。 「とっ、撮ってないよ」 「ウソだっ!じゃ、見せて」 日置は素直にカメラのモニターで今撮った写真を見せてくれた。 机の上だけど、机は高さを出すためだったらしく、窓とオレがメインの写真になっていた。 うーん、確かにパンチラではないけど、太ももむき出しでスゲェギリギリ。 これはグレーだな……。 てか、オレがスカート押さえたせいで逆にパンチラになってるのもある。 ジト目で睨むと… 「いや、これはイブちゃんが押さえたから、たまたまこうなっただけで……」 って、だったら撮らなきゃいいだろう。 「パンチラは、消去」 「あーっと、お尻押さえてても、見えてないヤツはいい?」 ちょっと情けない顔で頼まれた。 まあ、同じ男だし、気持ちはわからんでもない。 その対象が自分じゃなければ。 ……とはいえ、これはオレっていうよりイブだしな。 「……しょうがないな」 ちょっとふて腐れたような顔を作って言うと、光が飛び散ってるんじゃないかってくらいぱぁぁっっと日置が喜んだ。 男って単純だな。 ……この単純さ…オレも身に覚えがあるよ。 でも、いつもバイトでは偉そうな日置が…いや、実際責任ある立場なんだけど、とにかく今日はオレの一言に日置が翻弄されてるってことが、ほんとすげぇ楽しい。 それに、たとえちょっとキワドい写真を撮られたとしても、そこに映ってるのはオレじゃなくて『イブ』だ。 机から降りて、日置の手を入れ込んだアングルの写真を撮った。 オレメインで、そこに日置が手だけで登場。 恋人つなぎをしてみたり、頭をなでられたり。 頬までなでられ、なんだかだんだん甘い空気になってきた。 日置がメロメロになってる。 けど、ま、日置と甘い空気を作ってるのはオレじゃなくイブで、日置がトロけきった表情で見つめてるのもイブだ。 日置の指がオレの唇をなでた。 じっと日置を見つめる。 もう完全に恋しちゃってるトロットロな目だ。 日置がオレに…変な感じだけど……………楽しい。 イタズラ心で日置の目を見つめたまま、その指にチュとキスをした。 日置の口がゆるく動いている。 イブとキスしてる気分にでもなってるのかもしれない。 「撮らないの?」 そう聞くと日置がハッとした。 ふふん、オレの唇の感触に夢中になって撮影を忘れてたな? もう一度チュっと指にキスをしたら、わかりやすくゴクンと唾を呑み込んでからシャッターを切った。 「サツマも一緒に写れば?」 「俺はコスプレしてないし……」 「コスプレ撮影じゃなくって記念だよ。イブと写るのイヤ?」 「あ…あ、じゃあ」なんて落ち着かない感じで言って、一緒に自撮りをしようとするけど…。 「せっかくだから、コス写真みたいに綺麗にとってよ」 「…そうだね。せっかくだし……」 日置はカメラを固定して、何やらセッティングを始めた。

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