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日置くんはコスってほしい4
日置が本棚の前に椅子を置いた。
そこにオレを座らせて、後ろに日置が立つ。
当たり前のように背後から腕をまわされて、リモコンでシャッターをカシャリ。
抱きつくように腕をまわされたことにちょっとビックリしたので、仕返しに日置をキョドらせてやろうと、振り向いて腕を上げ、斜め上にある日置の顔を引き寄せた。
引かれるままにオレに顔を寄せる日置の胸が少しドキドキしてるのがわかった。
うん、それだけで満足。
…と思ったら、なんかそのまま日置の顔が近づいてくるんだけど。
「……撮らないの?」
「っっっぁああ、そうだな」
あわててカメラのリモコンを押すけど…いいのか?あきらかにオマエ慌て顔してるぞ?
「もう一枚、ちゃんと撮ろ。寸止め写真」
「寸止め…あ、うん、そ、そうですね。うん」
キスのお誘いではなく、単なるポーズだと理解した日置は、今度はしっかりイケメンフェイスを作ってきた。
う…この距離で、これはけっこうクる…。
しかも、目はうっとりで、完全にピンクのオーラ出しまくり、まるでオトしに来てるような表情だ。
と思ったら、二〜三枚撮った後にオレからぱっと顔を離して、真っ赤になってハァハァ言ってる。
おおう…コイツもオレごときの顔で緊張してたのか。
ふ…ふふっ。ちょっと気持ちいいな。
さ、終わり。と思ったら、
「もう一枚、ポーズ変えてもう一枚いいかな?」
必死で頼み込んでくる。
「いいよ、寸止めなら二枚でも三枚でも」
「ホント?」
日置は入れ替わりでさっと椅子に座ると、オレを膝の上に向かい合わせにまたがらせた。
ちょっと…コレはさすがに恥ずかしいんだけど…。
オレの腰と背中に手をそわせて抱き、顔を近づけ寸止め写真。
……うう。日置は余裕で、オレのほうが照れてしまってる。
顔の重なり方とか、足の角度まで指示されて、結局五〜六枚は撮った。
しかもなかなかオレを膝から降ろそうとしない。
「サツマ、どんな写真になってるか見たい」
日置が本当にしぶしぶオレを放して、二人で画像の確認に行く。
古びた本棚の前で、窓から斜めに差し込む光の中、日置の膝の上に座るオレ。
まるで人形みたいだ。
最初の一枚は寸止め写真って感じだったけど、他のは完全にキスしてるように見える。
これを狙ってたのか。
セコイな日置。いや、健気なのか?
『イブとチュウしてるっぽい写真』を見て、日置の頬がだらしなく緩みっぱなしだ。
けど…ちょっと足を上げてと指示されたこの写真…。
「っって、対面座位じゃねぇかっ!」
「えっっ!?」
オレのいきなりの大声に驚いて、日置がカメラを取り落とした。
あっぶねー!!!
ちゃんとストラップ腕にかけてたから大丈夫だったけど、スゲェびっくりしたよ。
日置を見ると、へなへなと座り込んでる。
え?どうした。
顔が真っ赤だぞ。
「いや、俺そんなつもりじゃ…ほんと、イブちゃん違うから」
あ、オレが『対面座位じゃねぇか』って言ったから?
薄ら涙目だ。
「ウソばっかり。サツマのエッチ」
ちょっとからかったら、さらに真っ赤になった。
たったこれくらいで?
まさかモテメン日置にこんなピュアな面があったとはな。
どうせ女喰いまくりのくせに。
あれか?『イブは穢しちゃいけないんだ!』みたいな二次元の神格化なのか?
こんなヘタってる日置は珍しい。
でも、ふだんビシバシ言われてるし、ちょっとくらいオフザケで虐めてもバチは当らないだろう。
座り込んでる日置に、ぴったりくっつくように立って見下ろした。
「アニメのイブは女の子だけど、このイブは男の子だよ?わかってる?」
「も…もちろん!…………わかってマス」
尻すぼみな返事だ。
もちろんと力強く答えたはいいけど、男のコスプレにキュンキュンしてる状態を気まずく思ったんだろう。
「一緒にツアーに参加してるサツマの友だちの女の子に聞いたけど、サツマはレイヤーの男の子とつき合ってるんだろ?こんなエッチな写真ばっか撮って、その子に悪いって思わない?」
「……は?つきあ…っっそれ言ったのミランか?」
「ミランちゃん…だったかな?かわいい子。他も何人かいたけど」
「つき合ってないよ!エンジェルコードだろ?あんなヤツとつき合うわけない!」
急に日置がイライラとし始めた。
「エンジェル…?あ〜、エンコくんとか言ってた」
「男のくせにブリブリしてて、自分の事キレイだって思いすぎなんだよ。気持ち悪い。イブちゃんとは全然ちがう」
あれ?オレも今日はかなりブリブリ乙女ぶってたつもりだったんだけどな…。
日置がすくっと立ち上がってオレの両手を握りしめた。
「イブちゃんは、ちゃんと男の子が女の子やってるって感じがいいんだよ!」
えー、そんな力説されてもどう対応していいかわからない。
「俺、ほんとにアイツとはつき合ってないから、だから…」
言いかけて、日置は下に向いてるオレの目線に気付いた。
さっきへたり込んでたときから、日置はすでにこの状態だった。
てか、こうなっちゃったからへたりんこんだのか。
「あ…ちが…これは…」
股間を押さえて…何をどう言い訳するつもりなのか、聞いてあげようと思ったけど、モジモジするばかりでそれ以上何も言わない。
「なんでそんななってるわけ」
「その…膝の上のイブちゃんから甘い匂いがしてたし、写真見て『対面座位』とか言うし。そしたら膝の重みとか、温もりとか、腰の感触とか…そんなの思い出しちゃって」
「だから、オレ男だって」
「わかってるよ」
「男が好きなのか?」
「わかんないよ」
「え?……わかんないの?」
「……わかんないよ。だって、まだ会ったばかりなのに…男だってちゃんとわかってるのにこんなにドキドキして、なのに前から知ってるみたいな安心感もあるし、どう考えたって俺、イブちゃんに恋してる」
見てるこっちがドキドキするような、切なくはかなげな表情で、股間を押さえた日置に告白されてしまった。
でも恋してると言っただけで、どうなりたいと言われたわけでもない。
ここは華麗にスルーだな。
「じゃ、股間がおさまったらバスに戻ろうか?」
「えっ?いや、まだ時間あるし…もう少し…」
「またオレの恥ずかしいポーズ撮って、サツマの股間がおさまらなくなって、あげくの果てに襲われちゃったりしたら嫌だし」
「しないよ!そんなことしない!」
焦って否定する日置をジト目で見た。
「オレ男にヤラれるとか、ぜったいヤだし」
「本当に何もしないから。…その、もう少し二人きりでいてくれないかな?」
「本当に?もし襲われそうになったら、逆に襲い返しちゃうかもよ?」
オレが釘を刺すように言ったら、日置が今度は膝から崩れ落ちた。
おお…。ようやくオレが男だって実感したのか。
と思ったけど、なんか…顔真っ赤にして口元押さえてる…。
おいおい、口じゃなくてもう一回股間を押さえた方がいいんじゃないのか。
そしてオレを見上げた日置の目は、キラキラと潤みまくっていた。
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