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日置くんはコスってほしい6[幕間]日置くんはクッションに憧れる
日置サイドの小話
――――――
一目惚れなんか信じてなかった。
けど『一目惚れ』は形のあるものじゃない。現象だ。
信じようと信じまいと起こるのが「現象」で、一目惚れは起こそうと思って起きるものじゃないし、起きるはずないと思っても、起こってしまえば、自分でもどうしようもない。
◇
知人に誘われ、たまたま都合がついたので撮影のツアーイベントに参加をした。
バスで現地入りした後、イベントホールのエントランスで主催から挨拶や今回のイベントの説明が行われるとのことだった。
エントランスへ向かう途中、話しかけてくるツアー参加者の女の子たちには個人的興味がないことを示すよう、俺は目をそらしていた。
けれど、その視線が次第に一点に集中していく。
そして気づけば完全に目を奪われていた。
階段を昇る目の前の人物の、張りのある膝裏が弾むように動いてる。
足を動かすたび、膝裏にしなやかなふくらみが現れてはくぼむ。
そしてスカートを揺らす柔らかそうだけれど少し筋ばった太股。
きっと日光にさらされることが少ないであろうそこには、なんとも言えない象牙色の透明感があった。
最初に思ったのは『触りたい』だった。
頭の中で俺は手を伸ばし、人差し指と中指で膝の裏のふくらみと横に走る溝をなぞっていた。
けど当然そんな事を出来るはずはない。
そもそも触りたいと思っていることに自分で驚いていた。
なぜそんなことを思ったのか。
自問にふっと浮かんだのが『一目惚れ』という言葉だった。
『一目惚れ』とは、もちろん顔だけで判断して好きになってしまうことだ。
俺の前を行くこの子の顔は、ちらっとしか見ていない。
だから当然、顔なんて何となくの印象でしか覚えていない。
なのになぜ一目惚れだなんて思うのか…。
しかもこのスカートから伸びる足は…。
……ハイソックスを履いているから断言はできないけど、柔らかそうなのにしまりがあって…きっと男だ。
身長は俺よりは低いけど、女性だとしたらかなり高い。
『一目惚れ…』
顔もよく見てない相手に?
でも後ろ姿を見ていると、まるでよく見知っているかのようにその子の笑顔が思い浮かんだ。
エントランスに設置されている椅子に、みんな思い思いに座っていった。
俺は当然のような顔をしてその子の横に座った。
その子はいきなり横に俺がすわったことに驚いたんだろう、ギョッとした顔をして、少しあたふたとしている。
うん。
やっぱり男だ。
驚いた表情に少し『男』が出ていた。
でも、かわいい。
少し幼く見えるけど、ツアーの参加条件が十八歳以上だし、きっと俺と同じくらいの年齢のはずだ。
顔をしっかりと見て確信した。
やっぱり俺は一目惚れをしてしまったんだ。
脳裏にさっきの膝裏がチラつく。
さわりたい。
男同士なんだから、親しくなれば少しくらいさわらせてくれたりしないだろうか。
そう考えて混乱した。
男だとわかっている。
なのに俺は頭のどこかで、可愛いコスプレの女の子に一目惚れをした気分でいた。
けれどこの子に近づくのに、当然のように男同士であることを利用しようとしている。
そして俺はそんな混乱すら持続できない。
その子が足を組んだ。
ただそれだけだ。
なのに横目で必死にチラ見をしながら、組んだ足と足の間に手を差し込みたいという衝動を自覚し、驚いていた。
この子にさわりたい。
……主に下半身に。
俺がもしこの椅子だったら…。
……いや違う。
それは違う。
クッションになって、寄りかかられたり、足に挟まれたり、膝におかれたり、抱きかかえられたり。
うん、こっちだ。
……いや、どっちだ。
冷静になれ。
この子は可愛いけど男だ。
消せない男らしさだって残ってる。
まあ、そこがまた可愛いんだけど。
いや、そうじゃない。
冷静に考えろ。
男ってことは、今着ているこのコスプレの制服を脱いだら、俺と同じモノがついてるってことだ。
この、スカートの中に……俺と同じものが…。
あ…なんか…考えちゃダメな気がしてきた。
だめだ…。考えるな。
こんな可愛らしい足の間に…。
……だから、考えるな。
ああっ、クソっっ。
萌えるっ。
このスカートをめくったら……。
…だから、考えるな。
男同士であることを利用して仲良くなっても、このスカートをめくらせてくれるはずなんかない。
…だから…クッションになって、太ももの間に挟まれてみたいとか…思うな俺。
気付いたら主催の挨拶などが終わっていた。
椅子から立ち上がるその子に、俺はあわてて声をかけた。
「あ、ねぇ、名前…教えて」
「え……名前?名前…えーっと、あ、イブだ」
それは、その子がコスプレをしているキャラの名前だった。
「『イブ』ちゃんだね。俺は『サツマ』だ。よろしく。今日は楽しい撮影会になるといいね」
当たり障りのない挨拶から、俺の『一目惚れ』は動き始めた。
◇
イブちゃんは可愛い。
そしてイブちゃんは素直で、流されやすい。
山寺での撮影のあと、廃屋でもイブちゃんを撮影した。
コスプレでの撮影の勝手がわからないということもあるのかもしれないけど、言えばどんなポーズだってやってくれる。
しかも…。
「オレ、男にヤラれるとか、ぜったいヤだし」
そんな事を強い口調で言っていたのに、なし崩しでふれてしまえば…アニメの『イブ』のツンデレキャラを演じながらも、俺の歪んだ欲望もするすると受け入れてしまう。
ツンデレな事を言いながら、スカートで覆われた股間に頬ずりまでさせてくれる。天使だ。
感動で…涙が…。
けど心配だ。
こんなに押しに弱ければ、今までも色々大変な目にあってそうな気がする。
とはいえ、今はとにかくもっとイブちゃんに近づきたいし、直にふれたい。
主に下半身周辺に。
最低でもあの内ももだけは、もう一度ふれたい。
けどこのまま上手くいけば、魅惑的な太ももどころか、あのスカートの中に隠されているイブちゃんの男の部分にさえ直にふれられそうな雰囲気だ…。
いや、冷静に考えろ、俺。
イブちゃんは男だ。男のあんなとこ、さわりたいか?
…いくら自分に問いかけても、とにかく興奮しかない。
『本当に?もし襲われそうになったら、逆に襲い返しちゃうかもよ?』とイブちゃんに言われても、『かも』なんて言わずにどうぞ襲ってください。と、犬のように腹を見せたい気分だった。
そんなコトをした経験がないので、冷静に考えれば恐ろしい気がしないでもないが、冷静さなんて0.5秒くらいしか持続しない。
生まれて初めての一目惚れだ。
イブちゃんとの事が、たとえこの場限りの儚い夢となってしまったとしても、それはきっと一生ものの思い出になるだろう。
イブちゃん。
アソコに触れさせてもらうとき…。
……スカートを履いたままだと、なお嬉しいんだけどな。
はふ…。
想像だけで…涙が……。
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