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日置くんはコスってほしい18[終話2]日置くんはラブちゃんをみつけた。…は?それで?
運命の出会いがあったバスツアーの翌日に、バイト先の居酒屋のスタッフルームで、あり得ない光景を見た。
新人バイトの女の子大崎さんが、ラブちゃんの服を脱がせていたのだ。
ラブちゃん。
素直で流されやすい、可愛いラブちゃん。
なんとそそのかされたのか、ウチの居酒屋制服を片腕だけ脱ぎかけた状態で大崎さんにニコニコと微笑んでいる。
そのままいけば、すべて脱がされ、しゃぶり尽くされてしまうに違いない。
ラブちゃんの男の証は、俺が守らなければ。
そう思って一歩踏み出し、ハタと気づいた。
なぜ、ラブちゃんが、ここに居るんだ?
いや、俺の前に顔を見せると約束してくれたんだから、それはおかしくないのかもしれない。
けど、なぜ伊良部 の姿をしてるんだ?
ラブちゃんが俺の方を見た。
すごく慌てた顔をしている。
ああ、こっちに駆け寄ってくる。
やっぱり大崎さんにたぶらかされかけてたんだろうか。
だから、こんなに慌てて、俺に助けを求めて……。
駆け寄ってくるラブちゃんを抱きしめようとして、今更ながら両手がふさがっていることに気づいた。
あ、使用済の焼き網。
目の前にラブちゃんがしゃがんだと思ったら、俺の足に乗っている焼き網を退けてくれている。
ああ、ラブちゃんは優しい。
けど、なんで焼き網が俺の足に……?
そして俺はようやく、トレーに乗せていた焼き網を、ガンガン自分の足に落としてしまっていることに気がついた。
騒然とするスタッフルーム入り口。
足を動かせずに苦悶する俺。
優しく気遣ってくれる、愛しいラブちゃん。
このとき、ガシャンガシャンと焼き網のぶつかる騒がしい音が、俺にはずっと『祝福の鐘』の音 に聴こえていた。
◇
ラブちゃんは約束通り、すぐに顔を見せてくれたというのに、自らの失態で、十日もその顔を見ることができなくなってしまった。
ラブちゃんが伊良部の姿をしているのなら、大学でも会えるのではないかと思っていたのに、会えないときは、とことん会えない。
それもこれも、俺が足を負傷して、行動範囲が狭まっているからなのは間違いないだろう。
バイトを休むことになっために出来た時間で、フォトブックを作った。
当然、あのツアーのラブちゃんの写真だ。
『アイ ラブ フォーエバー』と英字で書いたタイトルに、俺とキスポーズをとるラブちゃんが表紙だ。
はぁぁ……。ロマンティックすぎる。
間違っても、MY LOVE, FOREVER.ではない。
『I LOVE, FOREVER.』
I LOVEで、イ ラブ。
つまりラブちゃんのことだっっ!
ベストショットだけ厳選したはずなのに、一冊じゃ収まりきれず、結局三冊になった。
さらに、お尻の下のほうをチラ見せして振り返るラブちゃんの珠玉の一枚を、A3サイズでハイクオリティ光沢紙にプリントし、パネルに入れて寝室の壁に貼った。
光と影が印象的な、落ち着いたトーンの写真だから、シックな色調にまとめた部屋に貼っても違和感はない。
直接顔は見れなくても、おはようからおやすみまで、毎日ラブちゃんと一緒だ。
一人暮らしのアパートが、この写真一枚で二人の愛の巣に変わった。
でもこれで、こっちの寝室には誰も入れられなくなってしまったな。
まあ、飲んだ帰りなんかに泊まりに来る友だちは、全員キッチンと一続きの居間で雑魚寝させれば問題ないだろう。
スカートから見えているのはほんのちょっととはいえ、夢とロマンと冒険のつまった、ラブちゃんのお尻を誰かに見られてしまうわけにはいかない。
でも、この太ももの素晴らしさは、多くの人に見てもらいたい気もするんだよな。
『ラブちゃんが実は伊良部だった』……ということについて、一応ちょっとは考えてみたけど、その認識には違和感しかない。
どうにも『ラブちゃんが伊良部として俺の前に現れてくれた』という感覚になってしまう。
伊良部は……。
これまで二年間一緒にバイトをしていて、仕事上でもトラブルも少ないし、そつがなかった。
そつがないということ自体はいいことだが、正直言って、パートの伊佐さんや、大学生の国分くんと同じで、これといった特徴もなかった。
なんとなく三人がひとグループっぽい扱いで、ローテも一緒にするとが多く、正直、俺はほぼ同一視してしまっていた。
さらに、ラブちゃんの鮮烈なインパクトのせいで、もう以前の伊良部がどんな人物だったのか全く思い出せない。
伊良部の姿をしていても、ラブちゃんにしか見えないし、ラブちゃんだとしか思えない。
……ラブちゃん。
ああ、俺はなんで今まであの可愛さを見落としてたんだろう。
顔もほとんど変わってないのに。
いや、伊良部が見た目と性格、両方の可愛さをひた隠しにしていたのかもしれない。
あの無粋な長ズボンの中に。
可愛い。
好きだ。
ラブちゃん……。
ああ、会いたい。
写真だけでもその可愛いさは凄まじい。
はぁ……太もものこの影がたまらない。膝のくぼみも……いい。
出来ることならこの部屋でラブちゃんの手をぎゅっと握りながら、一緒にこの写真を眺めたい。
さらに言えば、実家でウチの妹が着ていたみたいな、ふわふわしたパイル地のショートパンツの部屋着で、靴下ははいていない方がうれしい。
いや、最初ハイソックスで、それを脱がさせてもらうんだ。
いいな……履いたり脱いだり。
いつか、そんな日が……。
そうだ、ラブちゃんは『見つけられたらご褒美』をくれると言った。
そのときは……この部屋で。
か……か……買っておこうか。
ラブちゃんのための部屋着。
……いや、それは先走り過ぎだ。
けど、靴下くらいなら。
はぁ……。
ラブちゃん……会いたい。
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