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日置くんはスキだらけ4
大学の学生会館で雑談をしていたら、日置に飲みに誘われた。
二人でなのかと思ったら、男ばっかで飲み会って話だったらしい。
何考えてんだか。
いや、アイツ、オレのことどっか女扱いしてるとこがあるから、酔わせて家に連れ込もう…………みたいな、回りくどいことしようとしてるのかも。
アホだな。
もう少しストレートにくればいいのに、なまじっかモテるから、ある程度お膳立てしたら、あとは相手から喰いついてくるのを待つっていうパターンに慣れてるのか?
…………って、あれ…………?
ええ……。
飲みの面子 、全員泊めるのかよ。
本当に日置が何を考えてるのかわからない。
一人暮らしのアパートは、酔っぱらいでギュウギュウだ。
置いてある家具は超シンプルだけど、壁に写真をランダムに貼ってあったりして、けっこうオシャレ。
ってか、ま、イメージ通りだ。
女の子が「やーん、素敵〜。オシャレ〜」とか言って、喜びそうな…………。
写真は日置が撮ったものがほとんどなんだろう。
友だち同士で写ってるのもあるけど、前に言ってた小物とか風景とか。コントラストが強くて『作品』って感じの写真が多い。
結構コスプレ写真も混じってるけど、なんだか人が置物みたいに無機質に撮られていて、他の写真と一緒に貼ってても全く違和感がない。
たしかにあのときの写真にも『イブ』を人形みたいに撮ってるのがあったな。
でも、エッチな写真はけっこう生っぽかった。
…………って、あれ?
ん?
あれっっ???
『イブ』の写真、ないな。
あんだけしつこく撮ったクセに、なんで貼ってないんだよ。
ワンコーナー作って貼りまくっててもおかしくないだろ。
山寺のご神木の前で撮った写真とか、けっこう良かったよな?
…………ムカつく。
はぁっ。ビール、ビール。
…………。
てか、部屋でもう一時間以上飲んで、みんな落ち着いてきたけど、日置のヤツ、オレのこと避けてる?
ぜんぜん話しかけてこない。
つまみを出したり、空き缶片付けたり落ち着かないし、隣にすら座らない。
なんなんだよ。
最近ずーっとオレのことエロい目で見てたクセに……。
バイト先でも、ちょっとあやしい……みたいなこと言い出す子まで出てきてんだぞ?
しかも冗談とはいえ、オレが日置のこと誘ってるみたいな扱いだし。
まあ、喜ぶかな?と思って何度かハーフパンツでバイト出たのは『誘ってる』と言われても仕方ないかもしれないけど?
いや、普通はハーフパンツごときで誘ってることにはならない。
……普通だったらだけど……。
だいたい、日置のほうが『イブ&ラブちゃん』にメロメロだったくせに、まるでオレのほうから仕掛けさせようとしてるような、ちょっと引いた態度が気に喰わない。
日置がしばしば見せる、びっくりするほどピュアな反応も、ギャップを狙ったモテテクなんじゃ……とか、穿 った見方をしてしまう。
バイト中に日置目当てで来る女性客に口説かれたって、いつもスマートにかわしてるし。
あの手慣れたモテメンぶりを目の当たりにすると、やっぱり不器用なピュアっぷりなんか、演技だとしか思えない。
相手によって対応を変えるぐらい、日置には朝飯前なんじゃないか?
というか、結局どうなんだ。
日置はオレのことをエロい目で見てるんだから、エロいコトをしたいと思ってるのは間違いない。
けど、あのバスツアーのことを言い出しもしなければ、口説きにもこないってことは……。
……日置ならわざわざ男とつき合わなくても、美人だろうが可愛い系だろうが女の子を選び放題だ。
けど、男とのエッチには興味があるから……オレから誘わせて『しょうがなく』みたいな態 でエッチなことだけ……みたいなつもりなんじゃないか?
くっ。バカにしやがって。
…………あ、ビール空だ。
次、チューハイか発泡酒か。どっちでもいいや。手近なの飲も。
「日置さんっ!なんすかコレっ!」
シャワーを浴びていた霧島が何かを持って居間に現れた。
「はいはい、勝手にあさるな」
日置が適当にあしらってる。
「オンナ?女ですか?」
「勝手に想像してろ」
日置が霧島からソレを取り上げて、ボトムスの尻ポケットにねじ込んだ。
そして、ハッと気付いたようにオレを見た。
その時日置がオレを見なきゃ、また霧島が何かふざけてんだなくらいに思ったかもしれない。
「あ、ちが……」
しかも、言い訳まで。
「なにが〜?てか、霧島、何持って来たんだ?」
「それがっスね〜」
「霧島、余計な事言うなよ。なんか言ったら、このまま部屋からたたき出す」
余計なこと……ね?
ちらっと見ただけだけど、靴下っぽかった。
女子が靴下忘れていくなんて…………完全にお泊まりじゃねぇか。
「うわ〜、勘弁してくださいよ。野宿は嫌っす。伊良部さんスイマセン、知られてたく無いモノみたいですっっ」
「…………へぇぇぇええ〜?」
わかってたけど、やっぱ女には不自由してないんだな。
しかも、脱衣所から靴下が出て来るとか、ほんとつい最近のお泊まりってことじゃないか?
…………まあ、別に、オレは日置とつき合ってるわけじゃないし〜〜?
エロい目で見られてる割には、微妙に距離取られてるしなっっっ。
クソ。
日置、マジムカつく。
そろそろ眠くなったと言ったら、日置の寝室に通された。
壁を見たら、なんか女の写真。
このベッドであの靴下の女の子とヤったのかと思うと、ムカついて寝る気にはなれなかった。
ムカつくから、イタズラでもしてやろうと思って、写真パネルを外してサインペンで落書きをした。
けど、よく見たら、それは『イブ』の写真だった。
だから、写真になると全然自分に見えないんだって。
……………………オレの写真貼って、その下で……とか。
ほんと、どういう神経してんだよ。
はぁっっ。
ムカつく。
…………寝よ。
あ、霧島め。人の頭またぎやがって。
ムカつく……。
………日置のバーーーーーーカっっ!
◇
次の日は、午前中からみんなでファミレスになだれ込んで、昼すぎに家に帰った。
ちょっと疲れたし、昼寝でもするか……と、Tシャツとスウェットパンツに着替えていて驚いた。
…………あれ……オレ……靴下…………?
はいてたっけ?
少し混乱しながら、その靴下を脱いでさらに混乱した。
え……これ……女物の靴下じゃないか?
サイズもなんか小さめだし、素材も。
そもそも、オレこんな靴下持ってない。
………まさかな……。
いや、ちっとも『まさか』だなんて思ってない。
これ霧島が見つけた、あの忘れ物の靴下だよな…………。
…………。
日置め…………。
どっかの女の子の忘れ物の靴下を、オレに履かせるなんて。
何考えてんだ?さっぱりわからん。
しかも、これ、オレが寝てる間に履かせたんだよな。
うーーー。
あいつ頭おかしい。
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