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日置くんはスキだらけ7

その日のバイトは片付けも含めて十時に終わった。 浴衣は格好よく着付けるのは難しいけど、脱ぐのはそう手間もかからない。 日置がスタッフルームで寝ているせいで、女性陣は衝立をして着替える羽目になったようだ。 女性の着替えが終わって、今度は男連中がスタッフルームに入り着替え始めた。 並べた椅子の上で潰れている日置を、みんな物珍しそうに眺めている。 「日置くんも、楽しんでくれてたんだなー」 なんて、酔っ払いの店長が呑気に言って、真っ先に店を出て行ってしまった。 これから、他の店に場所をかえて飲んでる常連さんたちに合流するんだろう。 数人のスタッフが、オレと日置をニヤニヤと眺めてる。 多分あの時、板場にいたメンツだ。 思いがけない話でいっぱいいっぱいになってしまってたから、誰がいたのか正確には覚えていない。 けど、おにぎり作成と料理の受け取りで、今日出てるスタッフの半分近くはいたように思う。 はー。 これから事あるごとにこんな空気になるのかな。 「伊良部くん、日置くんが起きるまで待ってるでしょ?戸締まり忘れないでね」 ニヤニヤしながら、パートの伊佐さんに言われた。 って事は、伊佐さんもあの場にいたんだな。 「あ、なんだったら、日置さんが起きるまで一緒に待ちますよーーん!飲、み、な、が、らっ!」 霧島はすっかり陽気な酔っ払いだ。あの時板場には居なかったはず。 「霧島はこれから飲み直し組と出るんだろ。邪魔すんなよ」 国分くん、邪魔すんなって……。いや、確かに邪魔だけど。 日置を起こそうとする、常識的な人までわざわざ制止している。 ……国分くん……。なんでだ。 オレと日置を置いて、みんな一気に帰ってしまった。 ……どうしよう。 「ひおきー……」 ちょっと呼んだくらいじゃ起きない。 当たり前か。 帰り支度でざわついてる中、眠りこけてたくらいだもんな。 ごそごそと身じろぎしてる。 椅子を並べた上で寝てるから、身体が痛いのかも。 強引に横向きになった。 ああ。 浴衣の合わせ目が、かなりはだけちゃってるよ。 THE酔っ払いだな。 日置の前にしゃがみ込んで、直してやろうとクッと(えり)を引っ張ったけど、よくよく考えたら、後は着替えて帰るだけだし、別にいっか。 さらに胸元がはだけてしまったけど、気にしない、気にしない。 てか、オレもまだ浴衣なんだよな。 着替えようと思って、帯を解いて気がついた。 あ、いつもの作務衣(さむえ)風制服のつもりで解いてしまったけど、全部着替えないといけないんだ。 さらに、いつも使ってるロッカーを開けて驚いた。 あれっ、服が無い。 あ、そっか、今日は予定外でバイトに入ったから、いつもと違うロッカーなんだっけ。 酔うまではいかないけど、オレもビールで判断力が落ちてるな。 浴衣をはだけたままウロついて、目的のロッカーを開けようと、手を伸ばしたけど……あれ……? オレの手は空を切って、ぐっと後ろに引き寄せられていた。 「ラブちゃん……」 「あーっと、目、覚めたか?」 呑気な調子で聞いたけど、今、オレ、背後から日置に抱きしめられてる。 「ラブちゃん、なんでこんなエッチな格好してるんだ?」 「エッチって……ただ着替えようとしてただけだよ」 寝ていたせいか、酒のせいか、日置の声は少しかすれていた。 「……確か……バイト。俺、寝ちゃったんだよな。みんなは?」 「もう帰ったよ。お前が起きたから、オレも帰るし」 そう言ったら、抱きしめる日置の力がクッと強くなった。 「誰も、いないの?」 オレの頬にスルッと頬をすり寄せる。 「もう戸締まりも済んでるし、帰るぞ」 「……かえ………………らなきゃな」 スリスリと頬を擦り付けながらも、日置は聞き分けよく手を放した。 ……聞き分けいいな、日置。 オレの顔を見て、ニコッと笑って。 ホント、聞き分けいいな。 ……。 聞き分け、良すぎないか? 「お前、酔っぱらって、太ももにキスさせろってうるさかった」 八つ当たりのように、文句を言った。 「え……あ、ごめん」 気まずそうに謝りながらも、日置の視線が思いっきりオレの足に絡み付いた。 何がそんなにいいんだろな。 疑問に思って、片足を椅子の上にドンと乗せてみた。 はだけた浴衣の合わせ目から、むき出しの足が出ている状態だ。 オレの足……別にフツーだろ? 「あ……な、な、あ、なに?ラブちゃん……どう、どうしたの?」 オレの足を見て、日置が激しく取り乱してる。 ……なんでこんな反応するんだろう。 わかんないなぁ……。 男でも胸とかなら、さわりたいとか舐めたいとか、少しはわからないでもないんだけど。 うん、胸。 浴衣からチラリとのぞく胸とか、その気になってみて見れば、男でも色っぽい気がする。 日置がオレの太ももに釘付けになってる。 その無防備な胸元は大きくはだけ、力強く丸みを帯びた胸はもちろん、引き締まった腹筋まで晒していた。 オレよりしっかり筋肉がついてるから、胸も多少厚みがある。 「……」 「……」 日置がオレの反応を伺ってる。 犬みたいだ。 「日置、こっち来いよ。着替え、手伝ってやる」 デレデレとした顔で、言われるままに近寄ってくる。 そんな日置に後ろを向かせて、浴衣の両肩をぐいっと一気に引き下ろした。 そして、少したわんだ(そで)を、適当に背後で結ぶ。 「……?ラブちゃん?」 「さっき酔っぱらって迷惑かけられたから、迷惑料、貰わないとね?」 「え……」 よくわからないと言った顔で振り返る日置におかまいなしに、背後から両脇に手を通して胸をさわってみた。 おお。ツルツルな手触りは案外悪くない。 「ら……ラ……ラブちゃん??ラブちゃん?」 ドドド……と日置の心音が激しくなって、肌が一気にしっとりとしてきた。 混乱はしているけど、嫌がることもなく、なすがままだ。 背後から首筋に顔を埋めて、日置の胸を大きくなで上げる。 日置は落ち着かない様子で小さく身体を揺すっている。 嫌がるわけでも、気持ち良さそうな感じでもなく、ただただ落ち着かないみたいだ。 うーん。 もうすこ〜し、色っぽい反応が欲しいかな。

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