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日置くんはスキだらけ12

「ちょっと、どうなってんの?」 声をひそめてはいるけれど、語気は強く、伊佐さんの表情も険しい。 「え……何がですか?」 「何がって……知らないの?大崎さん、日置くんにデートに誘われたって、嬉しそうに言いふらしてたわよ」 「え……」 「明後日、飲みに行くんだって。いいの?」 「いいの……って言われても」 「ちゃんと確認しないと。いいように遊ばれちゃダメよ?」 周囲の微妙な同情の視線を感じつつ、伊佐さんにドンと背中を押されて外へと出た。 外には日置が一人で待っていた。 国分くんは先に帰ってしまったんだろう。 「……」 「……」 日置は楽しげで、オレはどんより。 どうにも比重の違う沈黙が漂っている。 オレと一緒に帰れるのが嬉しくてニコニコしているコイツが、大崎さんをデートに誘ったって……? 意味はわかってるんだけど、理解が出来ない。 そんな感じだ。 でも、オレの様子がおかしいことくらい日置にだってすぐ伝わる。 「ラブちゃん……何かあった?さっき伊佐さんに引き止められてたけど」 「あ…その……大崎さんが……」 「うん?」 大崎さんの名前を出しても、日置の様子に変化はない。 手慣れてんのか、まったく後ろ暗いところがないのか。うーん、これはどっちだ。 わからねぇ……。 「その、国分くんが大崎さんを指導してたのに、今日急に日置にいろいろ質問してたから……国分くんが自分の指導が悪かったみたいに思われるのが嫌みたいで……」 とりあえず、国分くんのクレームを伝える。 「ああ、あの子なんか急にやる気になったみたいだな。そのやる気がいつまで続くのかわからないけど、彼女がやる気がなかったのはみんな知ってるし、誰も国分くんのせいだとは思わないだろ」 「ま、そう……だよな。オレもそう思う」 オレの返事にふふっと日置が笑った。 「ラブちゃんは本当やさしいなぁ。国分くんのこと心配してそんなに落ち込んでたんだ?」 「いや、べつに……」 日置がオレを見つめる目はハチミツみたいに甘くて……。 おずおずと伸びた手は、オレの手を握ろうかどうしようかと迷っている。 あぁ……やっぱ、変なカンジだ。 オレにこんな愛情たっぷりのまなざしを向けておきながら、手も握れないヘタレな日置が。 オレと数百メートルの距離を一緒に帰るのを、こんなに楽しみにしてる日置が。 ……大崎さんをデートに誘う? でも、大崎さんに『明後日、大丈夫ですから』と言われて、あっさり『そう』なんて返事してた。 「……明後日……何があるんだ?」 「え……?別に何もないけど?何?」 「えっ、何も……ないのか?本当に?」 「バイトも休みだし。何も?」 …………。 うわ……。 どう見ても本気で言ってるようにしか見えないけど。 わかんね……。 本当のことにウソを織り交ぜたり、ウソは言わずに本当のことも言わない……なんてテクを使われたら、オレじゃ見破れないだろうしな。 ああ……ダメだ。 オレ、人疑うの……苦手だ。 ズバっとはっきり聞いたのに、結局よくわからない。 「ラブちゃんいつも水曜日はバイト入れてるよな?何かあるの?その、何かあるならラブちゃんのバイト終わりに……そ、その……迎えに……行くよ?」 なんだよ、その期待に満ちた目は。 大崎さんと飲みに行ったって、オレのバイト終わりに会いに来るのは不可能じゃないんだよなぁ……。 うう……余計混乱してきた。 「いや、別に何もないから」 「あ、もちろんバイト始まる前も空いてるけど」 「何もないって。気にすんな。じゃ、また明日な」 「え……帰るの?」 「は?帰るだろ」 この交差点でオレは右に曲がる。いつもの事だ。 日置がまだ一緒にいたがってるのはわかってた。 けど、大崎さんのことを隠すわけでもなければ、はっきり話すわけでもない、そんな態度がスッキリしなくて、後ろ足で砂をかけるような気分で日置とわかれた。 ピラピラと雑に手を振るオレを、いつまでも日置が見送ってる。 そんな日置をオレもちらちらと振り返って確認してしまう。 う……。 なんだよもう。大型犬かよ。 はぁ……こういう可愛いさ、これもモテテクなのかなぁ。

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