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日置くんはスキだらけ17
霧島が大崎さんに余計な爆弾を落としたので、オレはさっさと逃げてきちゃったけど国分くんはスタッフルームに残った。
国分くん……野次馬根性が旺盛なんだな。
それにあの展開からいって、オレが居たら誰か余計な事言って火に油注ぎそうだし。間違いなくいないほうがいい。
それにしても霧島、アホだな。
絶対大崎さんに恨まれるぞ。
あ……国分くんからの電話だ。
オレは街灯のそばの歩道の手すりに腰をおろし電話に出た。
国分くんは、霧島が放り込んだ爆弾を日置がスマートに処理したって事を教えてくれた。
どうにか上手く話がまとまったらしいのに、国分くんがぷりぷり怒っている。
どうやら、大崎さんがキャッキャ浮かれてたのは、日置が何か思わせぶりなことをしたからだったらしい。
そのせいで職場の空気が悪くなったとグチグチだ。
平穏を愛する国分くんは、平穏な空気を乱す輩 を許せないようだ。
今回は日置が『自分のミスで大崎さんを勘違いさせてしまった』と、自分の責任をアピールしたうえで、大崎さんには全く問題がないからと無理矢理言いくるめたらしいので、すぐにまた二人が何か似たような問題をおこすんじゃないかと心配している。
「他の人たちはどんな感じ?」
『やっぱり大崎さんの勘違いだったかって空気感。前もなんかこんな事あったよね』
「あー。女の子二人が日置を取り合って、二人とも辞めちゃった」
『ほんと、こういうゴタゴタは嫌だ。……あっ、伊良部くんはバイト辞めないでよ!?』
「え、なんでオレが辞めるんだよ」
『……それは……だから……』
あ……そっか、はたから見たら『日置がオレを捨てて大崎さんに行った』って図式が崩れたから『オレと大崎さんが日置を取り合ってる』って構図になっちゃうのか。
……あ、いや、はたから見なくても……事実そういう事になるのか。
う……なんか変なカンジだなぁ。
「今のとこ、オレはバイトを辞める予定はないよ」
『伊良部くん頑張ってね。そして日置を落ち着かせてよ!』
平穏を愛する国分くんは、職場の平穏のためならセクシュアリティとかそういう細かいことは気にしないらしい。
オレが頑張れば、日置は余計にソワソワ落ち着かなくなる気がするけど、国分くん的には日置がオレだけを見てれば落ち着いていると判断するんだろう。
でも、他の子がその気になっちゃうのはどうしようもないと思うんだけど。
日置はレジで釣り銭渡す時に手がふれただけで、女性のお客さんをカン違いさせてしまうような男だし。
「え……辞めるって……何?」
いきなり電話の外から降ってきた声に驚いた。
「おわっ……日置、何でここに?」
いつも日置と進行方向が分かれる交差点から少し過ぎた地点で電話をしていたから、まさか現れるとは思わなかった。
「電話してる人の姿がちょっとだけ見えて、夜目でわかりづらかったけど、もしかしたらって思って。で、辞めるって……?」
とりあえずオレは国分くんに日置の登場を告げ、頑張れと雑なエールを贈られながら通話を切った。
「国分くんに『辞めない』って言ったんだよ。聞き間違いだ」
そう言いながら、軽く日置の肩を押して近くにある住宅街の小さな公園へと誘った。
「本当に?」
「本当だよ。なんでオレが辞めるんだよ」
「さっき『霧島が大崎さんにデートの話を振った途端、伊良部くんがサッと帰っちゃったから、ショックでバイト辞めてしまうんじゃないか』みたいなこと言ってる人がいて……。なんでラブちゃんが辞めるって話になるのか、意味が分からなかったんだけど……まさか、ラブちゃん大崎さんのこと……好き……だったり……した?」
ああ……話がしっちゃかめっちゃかだ。
いろんな推測が混じりすぎて、わけのわからないことになってる。
ふぅ……と、ため息をひとつついて、オレは日置を促しベンチに座った。
「オレはバイトを辞めないし、大崎さんのことも別に好きじゃない。それから……日置が大崎さんを飲みに誘ったって聞いて、ちょっとムカついてた。日置はどうなんだよ、大崎さんのこと」
「え……いや、それは本当に勘違いだから。誘ってないし、もちろん好きでもないよ!」
日置の表情にウソは無さそうだった。
「うん、わかった。信じる。けど、なんで大崎さんはそんな勘違いしたんだ?」
「それは……」
ちょっと口ごもって、日置は何かを取り出しオレに握らせた。
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