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日置くんはスキだらけ18
「なに、これ。……あ…………」
それは日置がオレを飲みに誘った時の手紙だった。
確か『明後日、飲みに行きませんか?』とだけ書いてあった。
けど結局、居酒屋の夕涼みイベントのせいで行けなくって……。この白い封筒もあれ以来見かけてなかったな、そう言えば。
「なぜかこれが大崎さんが使ってたロッカーに入ってたらしいんだけど」
日置が困り顔でオレを見る。
てことはオレがイベントの日、ロッカーの中にこの手紙を落とした?
オレはいつもと違うロッカー使ってたから、次の日大崎さんがそこに荷物を入れて……。
入れた時には気付かずに、あとで手紙を見つけて自分宛だと思った……??
「なーるーほーどー?つまりさ、差出人は書いてるのに宛名をちゃんと書かなかったお前が悪いんだ」
「えっ!? ……そう言われれば、たしかに。……いや、でも……ええ?」
頷きながらも少し釈然としない表情だ。
「オレも次に手紙を貰ったら、読んだ後キッチリゴミ箱に捨てるようにするから」
「う……それはなんだか悲しいよ……」
「んじゃ、次からは、手紙じゃなくって、直接誘え」
チョンと人差し指で日置の鼻先を押さえた。
日置はきょとんとした顔で指先を見た後、期待に満ちた目をオレに向けた。
「……つまり、また誘っていいってこと?」
「なんだよ、飲みの約束が流れたのに、誘いなおさないつもりだったのか?」
「いや、行きたい。すぐにでも」
即答。いい返事だ。
「飲みかぁ。……大崎さんはデートのつもりだったんだよなぁ」
「だから……それは勘違いだから……」
勘違い……かもしれないけどさ。
オレとの飲みもデートのつもりじゃないんだろ?
なんとなーく、ムカつく。
オレのこと好きだとか言いながら、お泊まりに来る女の子もいるみたいだし……。
そんな事にモヤモヤするのって、ほんとイヤだ。
日置は少しガードが甘いっていうか、隙がありすぎっていうか、オレに言い寄ってるっていう自覚が薄すぎる。
……本当に本気でオレのこと好きなんだよな?
あんだけ好き好き言っときながら『それは勘違いだから』とか言いだしたりしないだろうな。
結構いろんな女の子を勘違いさせてるし。
誰にでもあんな事言ってるんじゃ……。
オレはベンチの間を詰め、こちらを真っすぐ見つめる日置にスッと近づいた。
「日置……『他の子とデートなんて、絶対に許さないんだからねっ!』とか言われたら……嬉しい?」
「ぉうふっ……う……うれしい…………です」
いきなり耳元で囁かれたオレのブリっ子声に日置がむせた。
「オレが他の子とデート禁止って言ったら、デートしない?」
「言われなくてもしない……けど」
「けど……?」
「い、言われるのは嬉しい」
本当にすごく嬉しそうだ。
何かこみ上げるものを押さえるように、口元に手をあてている。
そんな日置の目を見つめて、あごをくっと掴んだ。
「じゃあ、日置『オレ以外好きになるの、禁止』……とか言われたら、どうする?」
「え……。どう……どう……?? そしたら……好きって気持ちを抑えられなくなる……かな」
自分の中の答えをすくい上げるように目を彷徨わせた日置が、真っすぐ言葉を返してきた。
抑さえられなく……ってことは、今は気持ちを抑さえてるってことか?
だから、オレを飲みに誘うのすらあんなに遠慮がちなのか。
なんか……可愛いな。
でも、もどかしい。
『オレのこと見つけられたら』なんて約束があったから、オレも意地はって日置の方から来るのを待ってたけど、日置がこんなじゃいつまで経っても前に進めない。
意地をはるのはやめだ。
バスツアーで好きになった『ラブ』とオレが同一人物だと、コイツが気付いたって事は、とっくにわかってたんだし。
そして、あの時と同じ目でオレを見てることも……。
「日置、気持ち抑えなくていいから、オレだけ好きでいろよ」
オレの言葉に日置がパッと目を見開いた。
そんな日置のあごをそっと引き寄せ、軽くキスをする。
見開いていた目をキュッとつむり、キスが終わってもまだつむったままじっとしている。
ぎこちない様子に思わず笑いが出た。
「なに?もっとしてほしいの?」
「え……あ、ま、まぁ」
「しょうがないな」
ちゅ、ちゅ……と日置に軽いキスをいくつも贈る。
「ラブちゃん……いいの?俺、本気になっても」
「なんだよ。今までオレのこと本気でもないのに好きだって言って、からかってたのか?」
軽い調子で言うオレの肩に、日置がコトンと額を落とした。
「本気……だった……けど、本気で好きになっちゃいけないって……どこか思ってた。本当に、良いの?本気になるよ?」
「いいよ。日置の気持ち。全部受け止めてやるから」
腹、くくった。
イライラさせられるモテメン野郎だけど、イケメンな日置しか知らないヤツなんかには渡さない。
ヘタレなところも、キモい変態なところも、オマエの全部まとめてオレのものだ。
「うれしいけど……全部ってことは、だから……俺のこと好きになって欲しいって気持ちも…………受け止めてくれるの?」
「ああ。オレも日置のことだけ好きになってやる。だから、もっと惚れさせてよ」
クサイ台詞に照れそうになるのをごまかすように、ニッと笑って日置の頬にキスをした。
すると日置がそろそろと顔を上げる。
「そんな……」
目をきょときょととさせたと思ったら、急にバッと立ち上がった。
「え……どした……」
何故か日置が走り出し、公園の入口で立ち止まる。
そして、オレを振り返って弱く小さく叫んだ。
「惚れさせるとか……それができないから、悩んでるんだろ!」
…………。
「……はっ?」
え……悩んでって??
何言ってるんだ?
どこに悩む要素がある?
驚いて何も言えないオレを残して、日置はそのまま走り去ってしまった。
え……?
あれ???
本当にどっか行っちゃった?
てか、帰った???
何で?
今って『両思いになりました。めでたし、めでたし』の流れだよな??
んぉおおおお????
日置が本気でオレのこと好きだって言って、オレもその気持ち受け止めるっつったのに。
両思い……だよな???
この場合、抱き合って、またキスして、イチャイチャするんじゃないのか??
……んんん???
…………。
………………?
ま、いっか。
日置のことだし。
オレがショート丈のハーフパンツでも穿いて、膝の上に座って「大好き!」とか言えばどうにかなるだろ。
明日、日置はバイト入ってないけど、呼べば迎えに来るって言ってたもんな。
日置、明日は白のハーフパンツだ。
楽しみにしてろよ!
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