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日置くんはご褒美チュウ8

家に泊まった次の日から毎日、日置からメールか電話が来るようになった。 この一週間は、ゆっくり会ったりはできてないけど、大学では一緒にいることが増えてきた。 っていうか、日置がオレのざっくりとしたタイムスケジュールを把握しているらしく、どこからか湧いて出てくる。 他の友人がいなくて完全に二人きりの時間ってなるとかなり少なくなるけど、それでもひと気のないところで軽いキスくらいはした。 ……なんか、ちょっと恥ずかしいくらいにラブラブだ。 二人きりの時、日置はじーっとオレを見つめてくる。 その目は『好きだ』って強く言ってるみたいだった。 それに実際、隙さえあれば「好きだ」と言葉にして言ってくる。 あの顔で真っ直ぐ『好きだ』なんて言われるとオレも恥ずかしくなるから、最近じゃ好きだと言われそうな気配を察すると、話題を振って空気を変えるようになってしまった。 やっぱり大学構内でイチャつくのはダメだ。夢中になりすぎるのが怖い。 本当はバイト終わりに思いつきで日置の部屋に立ち寄って……なんてしたいけど、日置が気合入りすぎてて迂闊には立ち寄れない。 とにかく『次にウチに来る時にヤるんだよね!』というプレッシャーが……。 前回準備不足でヤれなかったから、パーフェクトに準備しなきゃという気構えもすごい。 しっかりガッツリ一発ヤるまでは、ちょっとイチャついて帰るなんて許されなさそうだ。 オレとしては、とりあえずゴムだけ……それとローションくらいあれば、あとは何となーくで、もし上手くいかなくてもまた次回ガンバロウ!みたいなカンジでいいって思ってる。 『男相手は初体験』ってことで色々考えるところもあるんだろうけど、そこまで頑張らなくていいのに。 いや、まあオレは受け入れる側じゃないし……無神経なことは言えないよな。うん。 「ラブちゃん!」 あ……来た。日置だ。 今日は一人か。 「……お前さ、よくオレのこと見つけられるよな」 「は?」 唐突なオレの言葉に、手を上げてニコニコ顔のまま日置が首を傾げている。 見張ってるとか、ストーカーとかそこまでされてるカンジはしないけど、なんか不思議だ。 「大学構内でラブちゃんが通る道は多くない。基本同じ道の往復で、変化があったとしても最大三パターン。講義の時間さえ把握してれば、こんな風に一番良く通るルート上で会えるのは当然だ」 「……あー……なるほど?」 なんかオレ、すげぇ単純なヤツだって言われてる? 「それで、ラブちゃんその今日……」 「あ、うん、街中で待ち合わせな?てか、この後一緒に行ったらいいんじゃないか?」 「それは……ちょっと」 何でか知らないけど、今日の午後四時って時間を指定されて、アーケード街の広場に呼び出されてた。 「でも今日、バイト前に国分くんと約束してるし、ほんと少ししか時間取れないぞ?」 「十分ほど時間を貰えればそれで大丈夫だから」 「そっか」 でも、せっかく街中で待ち合わせをするのに、十分間だけなんて逆に寂しいんだけど。 つつ……と手を伸ばし、日置の袖を軽く引いた。 「日置はこの後、すぐ講義?」 「いや、調査準備のために来ただけだから、時間は自由になるけど……あっ、いやそうじゃない、ラブちゃんがもし時間あるならお茶でもする?……しませんか?」 いきなり決め顔をつくったりしてどうした。 ま、非常に積極的で良し……だけどな。 「その辺の空いてる教室で二人になれればいいや。自販機でコーヒーでも買って飲も」 「あ、うん!」 一歩足を進めた途端、袖を掴んでた手がクイっと持ち上がったので振り返ったら、日置がガッツポーズをしてた。 たったこのくらいの事で大げさだな。 ……ま、でも……はぁ……。 オレも……ダメだな。 こんなアホな日置が可愛くてしかたがない。 小教室に入り込んでベンチ式の一続きの椅子に日置と並んで座る。 誰か入ってこないとも限らないので、イチャイチャはできない。 イチャイチャどころか、男同士で肩と肩をくっつけて寄り添って座ってるだけでちょっとおかしな光景だろう。 なのでオレは横を向いて座り、正面を向いて座ってる日置の足の上に足を伸ばして乗っけてみた。 これなら傍目にはそんなくっついて見えないだろう。 日置からもわかりやすく喜びの気が発せられてるし。 取り立てて会話もなく、マッタリとした空気の中でオレは日置の手をいじり、日置は幸せそうな顔でマッサージでもするみたいにオレの膝をなでている。 日置の指をクニクニと揉むように弄ぶ。 チロっと日置をみたら、目が合った途端みっともないくらいのデレデレ顔になった。 オレは手が大きめだから、オレよりガタイのいい日置の手と同じくらいのサイズだ。 指はオレの方が長いかもしれない。 日置の手はスラッとしてるのに程よくゴツくて、男らしい綺麗さがある。 こんなゆるみきった日置の顔ももうすっかり見慣れたな。 コイツをカッコイイって言ってる子達がこの顔見たら、がっかりしちゃうんじゃないか? ……なんて……デレ顔の日置を見つめ返すオレの顔だってニヘニヘになっちゃってるんだけどな。 それに、日置にのぼせてる女の子たちがこの顔見たら……がっかりするどころかギャップにやられてしまうに違いない。 他のヤツには見せてやらない。 ……少なくとも、オレとつき合ってる間なは。 はぁ……今はオレにデレデレでも、これまでの女の出入りの激しさがどうにもひっかかる。 「日置、部屋に女連れ込んだりしたら、オレ、もうお前の部屋に足を踏み入れないから」 「えっ!???? そんなことするわけない。あ、いや……」 「……『あ、いや……』ってなんだよ」 何でそこで口ごもるんだ。 コイツ……ほんと危ういんだけど。 「その、性別だけ言えば母親とか妹も女だなって……」 「はぁっ?お前、母親や妹とナニするつもりだよ」 「いや……普通に近くに来たからって寄ったり、まあ、泊まる事もあるけど」 「オマエは、家族と『連れ込む』に相当するアレやコレやをするのか?」 「……いえ、しません」 「当たり前だバカ日置」 「ごめん……なさい」 はぁ。ヤキモチ焼かせたいとかそんな計算もなく、ド天然でジリジリさせられるから困る。 こうやって二人きりで話してると、たまに本当は非モテ童貞こじらせ系なんじゃないかって疑いたくなる時がある。 けど他の奴らと一緒のときやバイト先では、余裕があってイケてるモテメンなんだよな……。 女の出入りが激しいのも、実はイタい日置を晒した途端に逃げられてるとか……そういうことなのかな。 じーっと日置の顔を見る。 日置もオレを見てる。 掴んだままの手をクイクイっと引いて、軽く唇を日置に向けて突き出した。 パッと日置の目が見開かれる。 そして、キョロキョロっと周囲を確認したあと、小さく手を震わせながらチョンっと唇を合わせてきた。 う……。 日置の嬉し恥ずかしげな表情が可愛い……。 けど、今のはキスとは言いがたい。 「日置、もう一回やり直し」 「え?いいの?」 「あんな幼稚園児みたいなキス……不合格だ」 「ふ……不合格っ……」 ショックを受けて軽く頭を抱えてる。 バカだな、そんな真に受けなくても。 「ほら、もう一回」 笑いながらちょっと突き出したオレの唇に、日置が顔を寄せる。 けれど一旦、横を向いて一つ大きな息を吐く。 そして、オレの肩をつかんでからチュ……と軽くキス。 少し唇を合わせ直してまたチュ……とキスをした。 『不合格』がよっぽどこたえたのか、日置の唇から伝わる緊張感がすごい。 吹き出すのは我慢したけど、顔がどうしても笑ってしまう。 「そんな緊張するなよ。わざと『不合格』になって、何度も追試のキスをしたいのか?」 日置の首に甘えるように腕をまわした。 「いや、そんなつもりは……」 否定の言葉を口にしながら、オレの甘い空気に日置の緊張も緩んだ。 ほんのちょっとでいい。 もうほんのちょっとだけ、甘いキスをしたい。 オレは自分から日置に唇を寄せた。 ちゅ……ちゅ……。軽くリップ音を立ててから、くすぐるように日置の唇をオレの唇で食む。 さらに、そろそろと優しく舌で日置の上唇をなぞった。 トロリと甘い空気が二人を包んでいく。 軽いバードキスとディープキスの中間のような、優しく甘いふれ合いなのに、そのくすぐったさに夢中になってしまう。 教室じゃイチャイチャできないって思ってたはずなのに、今誰かが入ってきても誤摩化すどころか途中でキスをやめる事すら出来ないかもしれない。 「日置、今日の夕方さ、何の用事があるんだ?」 ちょっと唇を離して聞いた。 「んん……それは……まあ、そのときに」 またすぐに唇を合わせてくる。 キスに夢中で聞いても無駄っぽいな。 でも、こんなとこであまり夢中になりすぎるわけにはいかない。 ……わかってる。 ……はぁ……。 わかってる……けど、もう少し。 てか……んんっぁ……はぁっ……。 さっきから日置の手が、オレのひざの裏からもも裏をねっとりと……ン……はぁ……。 キスは幼稚園児のクセに、この手つきは……ちょっとヤバイ。 ……ぅ……はぁ……。こんなトコさわられたくらいでこんな……。 「ラブちゃん……大好き……」 「ん……」 急に、こんな甘くささやくなんて……ずるい。 「ラブちゃん……大好きだ」 だから……。知ってるって。 もう、そんな風に言われたら……。 ここじゃ、イチャイチャできないんだって……。 はぁ……夢中になりすぎるから……あんま、言うな。 結局何度も何度もキスをして、自販機で買ったコーヒーは開けないままぬるくなってしまった。 ◇ アーケード街の広場で午後四時。 イチャイチャの余韻を引きずりつつ日置に会った。 本当に大した用事じゃなかった。 四時になると広場で、錆びた鉄のように色付けされた動物たちのオブジェが音楽に合わせて動き出す。 それを二人で見た。 オレとコレを見るためにわざわざ呼び出すなんて。 ……日置が可愛い過ぎる。 以前なら、こんなコトする奴に対しては『うはぁ、何クサいことしてんだよ』なんて思ってたはずだ。 けど、日置の一生懸命さに気取りは一切ない。 楽しげにオブジェを見ているオレを見て、日置も嬉しそうにトロリと笑ってる。 そして、こんなささやかな事ほど、後で大切な思い出になってたりするんだよな。 名残惜しくはあるけど、日置とはその場で別れて国分くんと待ち合わせしているファストフード店に向かった。 限定バーガーを食べるのだ。 ちょっと浮かれてるから、こんなことにもワクワク感が増幅するみたいだ。 ふふっ。 『かつおフライバーガー』楽しみだ!

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