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日置くんはご褒美チュウ10

「まさか伊良部(いらぶ)くんが日置を好きになるとは思わなかったなぁ」 ファストフードの店内で、無邪気な陽だまり笑顔の国分くんが唐突な話題の展開をしてきた。 日置とアーケード街の広場で動くオブジェを見たりして、ちょっぴり甘い時間を過ごした直後だから激しく動揺してしまう。 「う…まぁ……それはオレもビックリだし」 もう、今更否定するのも変なので当たり障りない返事をしておく。 「日置のどこを好きになったの?」 意外にグイグイくる。あまりこんな事を言い出すタイプじゃなかったはずだ。 それだけ疑問だってことなんだろうけど……。 「うーん。どこかなぁ」 「ま、イケメンだし、優しくはあるよね」 「ああ、そうだな。でも、イケメンっつってもなぁ……オレも男だし、別に」 「見慣れているし、いまさらか」 「それに優しいっつったって、これまであまりカラミもなったし、別になぁ……」 「え、じゃ、どこが好きなの?」 「ん〜。日置の……良いとこ……ってどっかあったっけ?」 「いや、僕に聞かれても」 情けない顔とか、変態臭い行動とかしか覚えてないなぁ。 「あ、マメだな」 ツアーの時、撮った写真をすぐに整理してパンチラチェックまでした。 「マメって、連絡をよくくれたりとか?」 「ああ、連絡先は先週教えてもらった」 「え?そんな最近?バイトだけでも一年半は一緒にしてるよね?」 「バイトの連絡は店長から直接か国分くん経由で来てたし」 「それまで全然連絡取ってなかったの?」 「これから、これから。何回か連絡やり取りしたし」 なんだか国分くんの顔が曇ってきたな。 「本当に、どこが好きなの?伊良部くん、大丈夫!? 遊ばれたりとかしてない!?」 「うーん、そこはわかんないんだよなぁ」 「わかんないって……」 ああ、国分くんがちょっと泣きそうだ。 どこが好きかわかんないって、そりゃ心配にもなるよな。 えーと、日置の良いところ……。 「あ、そうだ!フェ……。いや、なんでもない」 「なに?『フェ』って…。本当に大丈夫?遊ばれてるってわかってて離れられないとか、そんな……」 「いや、違う、違う!」 違うけど『イイトコ』が『ソレ』しか思い出せないし……。 「じゃ、なに?『フェ』て」 あ、それ、まだ引っ張るか。 「あーっと、フェ、フェ……。フェーン現象みたいなところが良いんだよ!」 「フェーン現象?それ、どういう意味?」 えーっと、フェーン現象って、なんだっけ。 「まあ、なんか、こう、必死で」 「山を隔ててあっちとこっちで、温度差があるってこと?ねぇ、本当に大丈夫?」 「えーと、温度差?それは誰でもあるんじゃない?」 よくあることだよな。 「落ち込んでたと思ったら、ひと山越えてすぐにお天気になるとか?」 「あ、まぁ、そういう落差はあるかも?」 オレの些細な言葉に落ち込んで泣きそうな目をしたと思ったら、すぐに喜んでウルウルしたまま、二へーと微笑んでくる日置がパッと浮かんだ。 うん、そういうトコは可愛いんだよな。 「感情の落差が激しいとか、日置、ヤバイ薬でもやってるんじゃない?」 「ええ?? いや、知らないけど、それはないと思う」 なんだか国分くんの日置に対する印象がどんどん悪くなってる気がする。 「ま、そのー、まだこれからだし。オレ、ドロドロ苦手だし、変な事になりかけたらすぐ逃げるから大丈夫」 「でも日置はすぐに三角関係とかになるドロドロ体質っぽいけど」 「あー、まぁねー。ドロドロ気質ゼロなオレと足して割って丁度良いんじゃない?」 ふぅ。国分くんがため息をついた。 「ドロドロを足したら、もういくら割ってもドロドロでしょ」 まあ、たしかに。 国分くんがパクンとポテトをくわえた。 ほっぺたがぷくぷくしてるから、国分くんが何か食べる姿にはすごく癒されるんだよな。 「伊良部くんは本当に優しいね。伊良部くんに目をつけたって事だけは、日置を評価してあげなきゃな」 なんとなーく気づいてたけど、国分くんの中で日置の評価はかなり低い。 「国分くんは日置の事、キライなの?」 「嫌いではないよ。あいつ頑張ってるし、デキるし、結果もちゃんとついてくる。けど、なんていうか……自分がないだろ?人のためとかそんなのばっかりで、面白みがない」 「まあ……確かに」 リーダー気質なわりに、自分から何かしたいとか言い出すわけじゃない。 オレも日置の『デキる男』みたいなとこは、興味ないっていうか、むしろ鼻につく。 でもオレと居る時の日置はそんなじゃなくって……。 「……オレ、今までのイメージとはちょっと違う日置を見てさ。必死で、みっともなくて、滑稽で……ダメダメなんだけど、そういうところが可愛くって」 「ダメダメな日置……。すぐカッコつけて女の子をその気にさせちゃうクズっぷり……のことじゃないよね」 「いや、そっちじゃなくて……。逆に女の子が知ったらちょっとガッカリするような、情けないとこを見て、それが健気でほんと可愛いく思えちゃって。……ちょっと口にするのは恥ずかしいけど『愛おしい』っていうのかな、そんな……カンジ。だからカッコ良い日置じゃなくって、オレに『好き好き』言ってくる、変な日置が好きなんだ」 国分くんが少し意外そうな顔をしてる。 こんな話一回もしたことないし。……メチャクチャ恥ずかしいな。 「日置が伊良部くんに『好き好き』言うの?なんか想像つかない。あ、でもバイトの時、甘い口調で話しかけてるか。あんな感じ?」 やっぱり周りにも甘い空気感が伝わってるのか。 わかってたけど……うう。 「まぁ……バイトのときの、何十倍もバカっぽい」 「え!? そうなんだ!へぇー!見てみたい」 「あいつはバカっぽいって自覚ないから平気だろうけど、オレが恥ずかしい」 それを聞いて、国分くんがちょっと目線を彷徨わせた。 「……やっぱり日置と恥ずかしいアレコレ……してるんだね。うわ……」 「ちょっ、そういう話じゃないし!引かないで……っていうか、どこまで想像してるんだよ」 「……どこまで想像したらいいの?」 「いや、想像しなくていいから」 うう……熱い……。 一気に顔が赤くなってしまった。 「ほんと、日置と伊良部くんとか……想像できない」 「だから、想像しなくていいって」 「泊まった時、押し倒されたりした?」 「ぶっっ。ちょ、国分くん、マジで想像するのやめて?つーか、日置はオレに対してホントヘタレだから」 「え、そうなんだ?途中で萎えたとか、そんな感じ?」 国分くんが目をキラキラさせてとんでもない事言い出した。 これまで国分くんとエロい話になったことがなかったんだけど、けっこうこういう話好きなのかな。 「国分くん、この話はホント無しで……」 「しょうがないな。わかった。でも、無しでってことは、やっぱりそれなりにエッチな事もしてるんだ」 ……もう何をどう言っても墓穴を掘りそうだ。 オレはテーブルに突っ伏して頭をガリガリと掻いた。 「で、結局、伊良部くんは日置のどこが好きなの?」 「は?またその話……?えーっとなんだっけ」 「『フェーン現象』とかワケの分からない誤摩化しは無しね」 突っ伏していた顔をあげて、腕組みして日置のいいところを再度考えてみる。 「あ…う……。まあ、どこと聞かれても、日置のいいところって……別に無い気がする」 「……伊良部くん、僕でも一応日置のいいとこくらい言えるよ……?」 「あ、いや、だからそういう表面的なイイとこって別にオレにとって日置の魅力じゃないっていうか……。むしろ他人(ひと)に見せないようなみっともないとこが可愛いから……」 「伊良部くん、まるでダメ男好きな女の子みたいな事言ってるねぇ……」 「う……。いや、でもそこまでダメじゃ……無いと思うし……。それに…………うん。やっぱりさっき言った通り、オレの事『大好きだ』って言いながら強く気持ちをぶつけてきて、すごくオレを求めてくる、そんなとこが……いい……のかな」 って、あれ。 国分くんが顔面おさえてのけぞってる。 「ふぁー。熱いなぁ。もう、ごちそうさまっ!」 「ちょ、自分が聞いてきたくせに!」 「『好き』から『大好き』に変わってるし。好みでもない日置に大好きって言われただけでその気になっちゃうなんて、ムードに流されまくってる気はするけど、それでも幸せそうだし、がんばって〜」 ああ、もう、すげぇ恥ずかしい。 国分くんが顔を手でパタパタと仰ぎながらパクリとポテトを口に運ぶ。 ごちそうさまって言ったくせに。 「で、やっぱ、最初は痛かった……?」 「ぶっっ!だから、そういう想像は無しで!てか、痛くないように気をつけるよ」 「あ、まだなんだ?」 「くっ。だから、想像しないでってば」 「下手すると、痔になるらしいよ〜?」 「え、やっぱそうなんだ。ま、でも、無茶しないよう気をつけるし……」 「でも、相手が調子に乗っちゃったら、止めようがないかもよ?」 「そこは……まあ、最初に『痛けりゃちゃんと言え』って言うしかない……」 「……??……ぇ、あっ!そう……なんだね?」 「ま、一応、気をつけるけど」 「そうだね。うんうん、今週末に二人ともバイトが入ってない日があるしね」 「………っだから、想像しないでくれよ、国分く〜ん」 オレの返事に国分くんのニコニコ笑いがさらに深くなった。 「ま、早いとこヤっちゃって、確実にモノにした方が、不安は減るよね」 まるでお地蔵さまのような安らかな笑顔で、サラっとすごいこと言ったね国分くん。 「ていうか、明後日だよ?もう約束してるの?」 ああ……国分くんの追及が止まらない。 「……してない。……ちょっとゴメン」 恥ずかしさに耐えきれず、オレは席を離れてトイレに向かった。 はぁ……。 国分くんってピュアなイメージだったから、こういう事にあまり興味がないのかと思ってたのに意外に喰いついてくるなぁ。 それに実際、今週末に日置ん家に行くつもりだったし。 日置のニブさと真逆の国分くんの察しの良さにドキドキだ。 でも、確かに二人ともバイトが入ってない日は、もう明後日に近づいてる。 日置の『お初』ヘの気構えがすごすぎて、約束とりつけるのすらプレッシャーで伸ばし伸ばしになってたけど、そろそろ連絡入れといたほうがいいよな。 席に戻ると国分くんが慈愛の微笑みを浮かべていた。 「伊良部くんになりすまして、僕のスマホからメッセージ送っといたから。あ、返事は伊良部くんのとこに送るよう書いといたから大丈夫だよ」 「………はっっ?え?誰に?」 「もちろん日置に」 そう言って送信済みの文章を見せてくれた。 ==== 明後日、泊まりに行くから♡♡♡ ボクの一番大切なモノをキミにあげる♡♡♡ 一晩ずっと離さないからな♡♡♡ というわけで、何時からなら都合がいい?? from イラブ♡ あ、返事はオレのアドに送ってネ♡♡♡ ==== 「おおおぉうふっ……。これ……マジで?」 「二人の時はバイトのときの何十倍もバカっぽいって言ってたから、こんなおかしなメッセージにでも騙されちゃうのかなーって」 「これ……だって国分くんから送信してるし、オレがこんな文章書くわけないってすぐ気付くって………」 その時、着信音が響いた。 「早いね……」 「…………」 国分くんに促され、オレは嫌々メッセージを確認した。 ==== あさては最終コマまでつまってるから、18じいこうしか都合が付きません、 でも出来る限りは役会えるように頑張ります それと貰ったメッセージがすごく可愛過ぎて、しんのうが止まるかと思いました。 保存して宝ものにするに ==== ううっ。しっかり騙されてる上に誤字脱字だらけ。 返信焦り過ぎだろ。 「うわ……日置っていつもこんな頭悪そうなメッセージ送ってくるの?『出来る限りは役会える』って……あ、『出来る限り早く会える』か」 「いつもはもうちょっと普通なんだけど……。ま、やり取りしてるって言っても『おやすみ』とかそんな程度だし」 「これは確かにちょっと意外性あるね。あ、僕の送ったメッセージを宝物にされても困るんで、あとでちゃんとネタばらししといて」 「……うん……」 どっちみち日置と会うつもりではあったし、ちょっと誘いづらかったから国分くんの悪戯はある意味助かったんだけど……でも、このハートだらけの文章はないよ。 日置の奴もなんでコレをあっさり信じるんだ。 ……いや、でもオレがあんなメールを打つより、国分くんがぶっ飛んだ悪戯メールを送る方がありえないって思ったのかも。 そこまで計算してた……? チロっと国分くんの顔をみると、ほんわか幸せそうな顔でハンバーガーにかぶりついてた。 このホケホケとした顔……。 くっ……侮れないのに癒される。 癒されるのにほんのり毒があるなんて、それってちょっと愛されキャラ過ぎるよ。国分くん。

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