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日置くんはご褒美チュウ16[閑話]日置くんは挙動不審

挙動不審だ。 明らかにおかしい。 そうラブちゃんに思われてしまっている。 わかってる。けど、ついおかしな態度になってしまう。 原因は……少し良いように言えば『三日前のラブちゃんとの初めての夜が、本当に素敵すぎたから』になるんだろう。 緊張で頭が真っ白だったけど、俺をいたわってくれるラブちゃんの優しさと、息が乱れたラブちゃんの色ぽさだけはとにかく印象に残っている。 ラブちゃんと結ばれたって事が幸せで、幸せで、幸せで……。 家から出て行くときも、ふと思い留まって愛らしく見上げてきたと思ったら、俺に身体を持たれかけてキス。 くすぐるように唇を触れさせ、やわやわと舌を絡めてきた。 キス終わりの俺を見上げるイタズラな瞳も愛らしかったし。 そんな最後の最後までハートを滅多撃ちされるくらい甘やかな時間で満たされてしまえば、その後部屋にひとりになっても当然頭の中はラブちゃんだらけ。 けど時間が経てば、本当にあれは現実だったんだろうかとか訳のわからない不安がやってきた。 幸せ9:不安1。そのたった1の不安が幸せ気分の足元をグラグラと揺らす。 それに加えて次の約束など何もないという事実。 さらにバイトでラブちゃんと直接顔を合わせると、気恥ずかしさまで襲ってきた。 自分がどんなだったかはさっぱり憶えていないけど、かなりみっともないところを晒してしまったはずだ。 あの時ラブちゃんは、それが良いって言ってくれてたけど、本気か単なる慰めかわからない。 気恥ずかしさでまともに顔を合わせられないけど、ラブちゃんを見ずにはいられない。 その結果、チラチラ見たり露骨に避けたり、明らかな不審行動。 そんなことをしていたら変に思われる。 けど『止めたほうがいい』と感じてすぐに止められるなら、そもそも不審行動なんかしていない。 結局のところ『あの夜が素敵過ぎた』なんて美化をしなければ、挙動不審の原因は……単に俺がキモい奴ってだけなのかもしれない。 う……いや、そうじゃないと思いたい。 はあ……。これが自分じゃなきゃ『何やってんだよ』と喝を入れるんだけどなぁ……。 大学でも近づけずにいた。 それでもついつい探してしまい、三階の教室の窓から外を歩くラブちゃんを見つけた。 遠くから眺めても、俺にはラブちゃんがキラキラ輝いて見える。 ラブちゃんを眺めながら、次はどうやって会う約束を取り付けたら良いのかと悩んだ。 あと数日で大学は夏休みに入る。 そうしたら、大学ではラブちゃんと会えなくなってしまう。 夏の予定はそれなりに入ってる。 けど、そのどれもラブちゃんと一緒のものはない。 せめて一度はどこか一緒に行きたい。 本当はずっと一緒にいたいけど。 『飲みでも、食事でも、遊びでも普通に誘えば良いだけだ』 結論は出てる。 けど、いつまでも悩む。 ラブちゃんは何が好きなんだろう? 俺のプランが気に入らなかったら? 都合が悪いとか言って断られたら? いや、そもそも都合が悪いっていうのが嘘で、もう会いたくないって思われてたら? もし、そんなことをグジグジ悩んでる奴がいたら、俺ならこう助言する。 『悩んでないで行動しろよ。誘ってみなきゃ結果はわからないんだから』 無責任きわまりない。 けど、誰かそんな無責任な言葉で、俺の背中を押してくれないだろうか。 夏、ビーチ、水着のラブちゃん……。 ダメだ。飢えた海獣(かいじゅう)どもの中にラブちゃんを行かせるなんて。 海の中から滑らかな脚を引っ張り、溺れたラブちゃんを人口呼吸でレスキュー。そんな大海獣が出てくるかも知れないし。 むしろ俺がしたい。 砂浜に寝転ぶラブちゃん。 濡れた身体を白い砂粒が飾る……。 海獣どもの無遠慮な視線から、俺が身を挺して守らないと。 ああ、想像が止まらない。 ◇ 今日も一日、ラブちゃんとまともに話せなかった。 大学はまだいいが、バイト中に可愛い笑顔を向けられると、ドキドキしすぎて壊れそうだ。 どうしたってエッチの時の色ぽい顔が脳裏をかすめてしまう。 無邪気な笑顔とエッチな顔のギャップ……。 くすぐったがって漏れる『ん……』という甲高い声と、俺の耳をくすぐった『ハァ……』という荒い息。 快感に緩んだ表情も愛らしく……。 ああ、ダメだすぐ妄想世界に飛んでしまう。 部屋に戻ると、さらにラブちゃんで頭がいっぱいになる。 このベッドで……ラブちゃんと……したんだよな。 ベッドで枕を抱いて意味もなくゴロゴロ身もだえる。 スマホを手に取って、ラブちゃんとやり取りしたメッセージを何度も眺めた。 そんな事をしているだけで瞬く間に時間が過ぎて行く。 夏休みに、なにが何でもラブちゃんとどこかに出かけたい。 数日後にこの夏最初の花火大会がある。 ラブちゃんを誘いたい。 電話をしようか。 でも、もう十二時近い。 迷惑だよな……。 結局、ラブちゃんにおやすみメッセージだけ送った。 ああ、やっぱり誘えば良かったかな。 いや、それは明日……。 そう、明日こそ誘う! しばらくしたらラブちゃんから返事が来た。 それだけで飛び上がりそうなほど嬉しい。 いや、実際ベッドで小さく跳ねたけど。 まさかの写真付き! ……あれ……? これ、ラブちゃんと国分くん……。 ……えっ!? 飲んでるって、今? 前に撮ったやつじゃなくって? だって、こんな時間なのに……楽しそうだ……。 国分くんだから間違いが起こったりはしないだろうけど……。 何度見ても楽しそうだ……。 こんな時間なのに……。 底抜けに楽しそうだ。 バイト終わりに時々二人で食事行ってるみたいだし。 俺は行ったことないけど。 バイト前に二人でファストフード店とかにも行ってるみたいだし……。 カラオケとかにも行ってるみたいだし……。 二人で映画に行ったって、聞いた事あるようなないような。 く……。 うらやましい……。 なんで俺も誘ってくれないんだ。 ……誘って……くれるわけないか。 いや、俺のほうから誘わなければ……。 でも……国分くん……うらやましいっっっ!!! ◇ 翌日、学生会館で霧島と話しているラブちゃんを見かけた。 俺が意識しすぎて近寄れないのに、親しげにラブちゃんと話す霧島にすら少し嫉妬のようなものを感じてしまった。 しかもラブちゃんにひがみ根性丸出しで国分くんとの飲みの事を聞いたら、不審げな目で見られてしまった。 最悪だ。 自己嫌悪でさらにラブちゃんを直視できない。 だめだ。 このまま負のスパイラルに陥ってしまいそうだ。 霧島に妬いたり国分くんをひがんでいてもしょうがない。 ラブちゃんを誘え。 男を見せろ。 目標は高く設定して、今週末の花火大会。 二人で花火大会なんて、これはもうデートだ。 あ……。 気付いてはいけない事実に気付いてしまった。 ……自分から好きな子をデートに誘うのは初めてかもしれない……。 はぁぁあああ……。 とりあえず……誘うのはバイトの後だ。 断られ気まずくなっても家に帰って寝るだけ。 「日置」 「えっっ!? ラブちゃん?」 大学構内の木陰のベンチでぼーっと考え込んでいたら、缶コーヒーを手にしたラブちゃんに声をかけられた。 「お前さ、オレに何か言いたいことあるんじゃない?」 缶コーヒーを差し出しながら俺に聞いた。 「え、これ、俺に?」 「うん」 「ありがとう」 汗をかいたアイスの缶コーヒーに手を伸ばすと、ラブちゃんがニッと笑った。 「受け取ったな?じゃ、ちゃんと話せ」 「え……?あ……」 戸惑う俺に、愛らしい瞳が『言え』と促す。 言いたい事……。 今まで『言いたい事を言え』と言われ、俺はごとごとくラブちゃんの想定を全て外してきた。 ならば今何を言うのが正しいのか。 「あ、缶コーヒーありがとう。ちょうど飲みたかったんだ」 「嘘つけ」 一刀両断。 ラブちゃんは自分の分の缶コーヒーを開けてクッと一口飲んだ。 ……ああ、顎のラインも可愛い。 いやそうじゃない。 結局ラブちゃんの求める答えを外してしまうなら、本当に言いたい事を言うべきだ。 ……好きだ。 俺とつきあって……。 いや、それは今言うべき事じゃない。 「その、週末の花火大会に行かない?二人だけで」 「えっ?」 ラブちゃんが思いもしないことを言われたって顔をしてる。 ……けど……すぐその素朴かつ愛らしい顔にニパーッと笑みが広がった。 「花火……いいな。うん。行こう」 あ、あああ……信じられないくらいニコニコだ。 そんなに花火が好きなんだろうか。 初めて最良のチョイスができたのかもしれない。 「初日はもう他の友だちと約束してるから、ラブちゃんとは二日目に」 「は……?あーまあ。うん。わかった」 あれ?あきらかにラブちゃんの気分が下降した。 どうしよう……何が悪かったんだ。 けどラブちゃんは俺の手の小指にすっと小指をからめ、ブンブンと二回振った。 「約束」 「あ、うん!約束!」 ラブちゃんが絡めた小指にチュッとキスをした。 「日置、ホント『約束』好きなんだな。じゃ、オレこれから講義あるから」 ラブちゃんは手を振りながら俺から離れて行く。 小指にはラブちゃんのふっくらとした唇の感触が残ったままだ。 気持ちはもう、花火大会の夜に飛んでいた。 夏の夜空に花火がきらめき、空を見上げる人ごみの中で闇にまぎれてラブちゃんと手をつなぐ。 ……ここだ。 ラブちゃんにもう何度目かわからない告白をして、しっかりはっきり『つき合って欲しい』と伝えよう。 もしこれでダメだったら……俺は。 大丈夫だ。 まだ性処理道具としての道は残ってる……。

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