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日置くんはご褒美チュウ18[終話2]
『オレばっかイチャつきたがってるみたい』って思ったのは、どうやら勘違いだったみたいだ。
日置の浮かれ具合がすごい。
何を言っても語尾に♡付きの返事が返ってくる。
花火が終わって『そろそろ帰る?』なんて聞いたくらいで『ウン♡』とか可愛い返事をされるとまぁまぁキモイ。
数日前までのシカト状態との落差が激し過ぎる。
花火で日置の気分まで打ち上がって、今弾けてる最中なんだろうか。
日置のアパートに二人で帰る道もずーっとウキウキ、ルンルンだ。
そして、部屋に着いてドアを閉めた途端、キス待ち顔。
外ではキモかったけど、日置の部屋の中ならどんなにデレを見せられても可愛く見えてしまう。
そんな自分がちょっとイタイ……。
いや、いいんだ。
今イチャつかずして、いつイチャつくって言うんだ。
トロンとした顔で日置がオレを抱き込み、スリスリと頬をすり寄せてくる。
同時に日置の『幸せ』って感情がオレを包んでいるのがわかる。
はぁ。大型犬みたいで可愛い。
くぅっ……。可愛いぞ日置!
ドアの側で焦らすようにソフトなキスを繰り返し、ローソファに座ってまたキス。
キスをしながらシャツの裾から手を差し込んだ。
日置の甘いため息に、肌を滑るオレの手はさらに調子付いていく。
しっとりとした肌のなめらかさが心地いい。
甘過ぎる空気に流され、我を忘れてしまいそうになる。
でも日置が痛いくらいギュッと強く抱きしめてくるので、そのたびに少しだけ冷静になれた。
ちょっと余裕を持とうと、部屋を見渡して気づいく。
リビングに貼ってた写真が減ってる。
コスプレ写真とか人間の写ってるものがほとんど無くなった。
「日置、壁に貼ってる写真、変えた?」
「あ……うん」
「なんで?」
日置が困ったような恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「や、ちょっと……その……見られてるみたいで……」
「え、なんで今さら?」
「それは……この部屋でこの前みたいに……その……イチャイチャしたりした事がなかったんで……。単なる写真だってわかってるけど……ちょっと気になって」
それはオレがリビングでガッツキ過ぎってことか?
キッチリしてる方だってのは知ってたけど、イチャつくのはベッドルームだけって、そんなこだわりがあるのかよ。
いや、でも前の時は日置の方がガッツいてたはずだ。
どっちにしろ、改めてそんな風に言われるとかなり恥ずかしい。
でも、写真を剥いだってことはリビングでのイチャツキ解禁ってことだよな。
つまり……オレを即寝室に連れ込んで、ヤるだけの相手ではないと認識してるってこと?
いや、逆にどこでもヤり放題的な………。
……ダメだ。ロクでもない考えにしかたどり着かない。
もしかしたら写ってる人の中に過去の恋人も含まれてるんじゃないかなんて、そんな余計な事を気にしなくて済むだけでも、ちょっと嬉しいし。
あんま、深く考えない方がいいよな……。
「あ、そうだ、キャンプだよキャンプ!」
「キャンプ?」
「うん、二人で川にキャンプに行くって言ってただろ?どっか良い場所知ってる?」
「え?まあ、あるよ。テントキャンプもできるし、コテージには炊飯器や風呂も完備で、ほぼ貸別荘みたいだけど、利用料金は比較的手頃なとことか」
「え!なにそれ!すごい!じゃ、そこ行こ」
キャンプが趣味ってわけじゃないから、キャンプ気分を味わいつつも、できるだけお手軽な方がいい。
「二人で?」
「え?二人でだろ?」
「いいの?」
「は?いやなの?お前が誘ったんだろ?」
「いやじゃない。けど……俺が誘ったっていつ?」
不思議そうな顔だ。
「え……さっき花火のとき最後の方に、キャンプにつき合ってって……。ちょっと待てよ。何、もしかしてオレの聞き間違い?」
「そう……だね」
日置ががっくりとうなだれている。
「えーっ。なんだよ、オレすげぇ楽しみだったのに。本当は何て言ったんだ?」
「……だから……つき合って欲しいって」
うなだれたままモゴモゴと日置が言う。
「いや、それは聞いたし。だから本当はどこに誘ったんだよ」
「どことかじゃなく、その、俺とつき合って欲しいって……」
「は?つき合ってんだろ?え、じゃなに、キャンプは無し?」
「キャンプは……行きたい……けど……。え?つき合って?」
「なんだよ。いつ頃行く?オレけっこう早めがいいな。来週とかでも大丈夫」
「来週?じゃ、予定確認する。それでその、つき合ってっていうのは別にキャンプにつき合って欲しいってことじゃなくて」
「はぁああああ?どっちだよ、行くの?行かないの?」
日置がグズグズ、はっきりしない。
「キャ、キャンプは行きます。そうじゃなくて、俺と恋人として正式におつき合いして……」
「うん。恋人としてキャンプね。いいよ。川で釣りも良いけど、日置さばける?」
「魚?いや……それは無理」
「じゃ、やっぱカレーかバーベキューだな!」
「ラブちゃん……」
「なに?」
「恋人って……いいの?」
「は?『いいの』って何だよ。曖昧すぎて返答に困る。ってか、こっちが聞きてーよ。もうふれずにいようかと思ってたけど、初エッチのあとしばらく無視してたよな?やっぱ本当はオレとするの嫌だった?」
「いっ、嫌じゃないです!!」
イチャイチャしながら楽しく予定を立てようとしてるのに、すっきりしない返事ばかりする日置にオレは苛立ってきてしまった。
「じゃ、なんであの後、オレを無視してたんだ?」
軽く睨んで、棚上げしていたモヤモヤをぶつける。
「ごめん……自分でもおかしな態度をとってるのはわかってたけど、どうにもコントロールできなかった。ラブちゃんを見るとすぐにあの時のことを思い出して、ドキドキしすぎて……」
「嘘つけ。好きな子意識しすぎた中学生かよ」
「嘘なんかつくはずないだろ。……でも、たしかに、中学生……だよなぁ………」
「はぁぁぁ………」
日置が頭を抱えて深くため息をついた。
何ふざけたこと言ってんだ。
お前、言寄ってくる女の子たちのあしらいに長けたモテメン様だろ。
可愛い女の子とデートしておきながら『ただ一緒に食事をしただけだよ』なんてムカつく余裕発言もあたりまえだったし。
その日置がオレとエッチして中学生に逆戻りって……。
あんな無視して、避けて、チラチラオレを見てた理由が『ドキドキしすぎて』とか……。
いや、ウソだろ。
でも、たしかにソワソワしてた……よなぁ。
思い返してみれば、興味をなくして素っ気なくなったっていう感じでもなかったような気がする。
もしかして……本当に?
本当にそうなら……。
軽くあしらえないくらいオレの事を意識してしまってるってこと……だよな?
う……。
ちょっと、かわいい……かも?
「……自分でも、情けないなって思う」
日置が言葉通り、他の奴の前じゃ絶対見せないような情けない顔をさらす。
くっ、ヤバい。こういうとこがツボなんだって。
やられた。
キュンときた。
胸の中にイチゴジャムでも流し込まれたみたいに甘酸っぱさでいっぱいだ。
さらに甘酸っぱさを求めるように、オレは日置の頬にチュッとキスをした。
「オレのこと、好き?」
「……好き。大好き」
真っすぐオレを見つめる目に嘘はない。……と思う。
「日置が好きなのはオレだけ?」
「もちろん。ラブちゃんだけだ」
気持ちがいいくらい即答だ。
けど、何度も確認しないと、コイツ油断ならないからな。
「他のやつに手なんか出したら許さないからな?」
「出すわけない。ラブちゃん以外いらない」
あれ?そう言えばコイツ……。
「お前さ、霧島に『決まった彼女なんか作るつもりはない』って言ったんだよな?」
「え、霧島?……ああ、うん」
「それって、どういうつもり?」
「もちろん言葉通りだよ。彼女なんか作る気はない。俺にはラブちゃんだけだ」
『当然だろう』とでも言いたげな顔で、その目は相変わらずオレが好きだと訴えかけてくる。
……何でだろう、日置の自信たっぷりな顔がマヌケに見える。
でも、ま、しょうがない。
日置の気持ち、一応信じてやろう。
なんて……。
日置が今のところはオレ一筋って再確認できて、超ゴキゲンなんだけどな!
日置の耳に口を近づける。
「じゃ、オレが女なんか二度と抱けないようにしてやるよ」
「……!」
日置が目を見開いて、パーッと真っ赤になった。
本当の事を言えば、どうやったら二度と女が抱けないようにできるかなんて、さっぱりわからない。
けど、そんなふうに言ってれば、だんだん本当に『もう女、要らないかも』とか思ってきたりするかもしれないだろ。
……いや。
二度と女を抱かない代わりに、他の男に手ぇだしたり……とか……。
ああ、くそっ。
コイツだったらありそうだ。
他の奴なんか見るな。
男とか女とか関係なく、オレだけを欲しがればいい……。
再び裾から手を滑り込ませて、敏感さを増すようにそろりと日置の身体を撫で上げた。
それだけで、日置の息があがっていく。
「ラ、ラブちゃん……さっき『恋人』って……」
「うん?」
「前に…『惚れさせてよ』って……」
「うん??」
言いかけてはやめて、日置が何を言いたいのかよくわからない。
「俺の事、少しは……好きになってくれた?」
「『少しは』好きだよ」
「本当に俺の事、好き?」
ちゃんと好きだって言ってやろうって思ってた。
でも、あっさり『大好きだ』なんて言ってしまうと、日置は余裕こいてフラフラ他の奴に手を出すかもしれないからな。
『好きだ』とは言ってやるけど、オレが日置にかなりハマってしまってるってことは……内緒だ。
「少しも好きじゃない奴と、恋人になんかなるわけないだろ?」
オレの言葉に日置が瞳を揺らした。
そして目のふちにぷっくりと水滴が膨らんでいく。
「ちょ……なんで泣くんだ」
「泣いてない……感動して体内の水分が押し出されてる……」
またそれかよ。……と思ったけど、日置……もしかして本気で言ってる?
ぽとんと頬に落ちた涙をちゅっと吸い取った。
きっとこの涙には、日置のオレを好きだって想いが詰まってる。
だから、ちゃんとオレが受け取らないとな……。
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