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日置くんはご褒美チュウ19[終話3]
「日置はオレが好きでもない相手と寝るような奴だって思ってたのか?」
日置の涙を止めようと、わざとふて腐れた声を出す。
すると、日置が慌てた。
「い、いや、そんな……。でも、ラブちゃんは優しいから『約束』してしまったらエッチなことも断れないかなって……」
ん……?
「それってつまり、好きじゃなくても頼み込まれたらヤっちゃうって思ってたって……こと?」
「いや、そんなことは。ただ、なんだかんだ流されてくれるかもっていう期待は……」
…………く……。このやろう。
やっぱり、オレのこと押せばヤれる奴だと思ってたってことじゃないか。
ヤリチンの経験則かよ。ムカつく。
それに、実際なんだかんだ流されちゃったしな……。
「つまりオレはお前の悪巧みで、流され、騙されて恋人にさせられちゃったんだな」
「悪巧み……!? いや、そんなつもりは」
オレのくだらない冗談に慌てる日置を見るだけで、ちょっと気分が良くなった。
「きっちり責任取って、お前に騙された可哀想なオレを誠心誠意大切にしろよ?浮気なんか絶対許さないからな」
「もちろん大切にします!浮気なんて絶対にありえないから!」
日置がオレの肩をガッと掴んだ。
力が入りすぎててけっこう痛い。
「……それで……ラブちゃん、さっき俺のこと『少しは好きだ』って言ってくれたよね。その、念のためどのあたりが好きか……教えてくれないかな?」
必死な顔で、まぁまぁ答えにくい事を聞いてくる。
「えー。だってオレ、日置の悪巧みで流されてエッチして『好きかも?』って思っちゃっただけだし、勘違いかも?」
「えっっ!? それは……そんな……」
いちいち真に受けてあせる、こういうバカなとこ……大好きだよ。
「日置、オレの事ホントに大切にしないと『やっぱ好きじゃなかった』って気付いて恋人やめちゃうかもよ?」
「いや、だめ……それはだめだ。大切にするから……だから……ずっと好きで、俺の恋人でいて」
必死な言葉につい顔がニンマリしてしまう。
「わかった。じゃ、いつまでもお前のこと好きでいさせてよ」
日置の首に腕をまわし、少し潤んだ瞳を覗き込んだ。
「はい。いつまでも好きで……えっ!? また課題!? どうやったら好きでいてくれるの?」
「それは自分で考えろ」
「ああああ……結局また、こうなるのか……うん……。頑張る。頑張るよ、俺!」
がっくりうなだれたと思ったら、やけっぱちのように拳を握って天を仰いだ。
『落ち込んでたと思ったら、ひと山越えてすぐにお天気』……これが国分くんが言ってた『フェーン現象』ってやつか。
うん、日置のこういうとこも好きかも。
◇
なんだかすっかり色気がなくなってしまったけど、夜はまだまだ長い。
「じゃ日置、今すぐオレに『お前のこと好きかも』って思わせてくれる?」
「だから、どうやったら……」
無粋なセリフを、チュッと軽いキスで止めた。
「まだ、ベッドには行きたくない?」
目を覗き込んで首をかしげると、日置の顔がパーっと赤くなった。
「その前に、シャワー浴びよっか?汗かいたし」
「一緒に!?」
戸惑う日置の手を引いてバスルームに向かう。
「あ、待って、ラブちゃんの部屋着」
日置がまたパイル地のパーカーを持って来た。
「……なんでコレをそんなに着せたがるんだよ」
ちょっと呆れた風に言うと、日置の眉がぐっと下がった。
「気に入らなかった?」
「気に入るも何も……女物だろこれ」
誰が着たかもわからないオンナ用の部屋着なんかムカつくだけだ。
「ラブちゃんに似合うかなと思って選んだんだけど……でも、女性用しかなかったから……ごめん」
「え?つまりオレ用に買ったって事?」
そう聞くと、日置がコクンと頷いた。
何で女物が似合うって思ったんだ……?
あ、でも日置がオレを好きになったきっかけは魔法少女のコスプレだ。
そこまで不思議じゃないかもしれない。
「じゃ、しょうがないな、着てやるか」
オレの言葉に日置の顔がパーッと明るくなった。
「できれば今日はショートパンツとロングソックスも……」
無邪気なニコニコ笑顔だけど、ちょっと変態臭さを感じるのは何でだろな。
ま、いい。
今日は日置の希望通り、この小恥 ずかしいガーリーなルームウェアでブリっ子ラブちゃんを演じてやろう。
ハミチンしそうなんでショートパンツは極浅履きじゃないとな……。
「じゃ、シャワー行こう」
軽くブリっ子モードで日置の腰にギュッと抱きついた。
「ラブちゃん…………」
早くもうっとりした調子でオレを呼んで、ギュッと抱きしめ、少し荒々しくキスをしてきた。
「日置……もう、シャワー……ん……」
いさめようと思ったのに、舌を絡めて強くキスを求められると、クラクラとしてきてしまった。
ん……。
……はぁ……ダメだ。
強引なキスが、気持ちいい。
バスルームの扉に手が届く距離なのに。
「ん……ラブちゃん……。かわいい……」
「はぁ……ん……部屋着姿……見たいんじゃなかったの?」
チュッと音を立てて吸われたと思ったら、こんどはネットリと舌が絡む。
ウエストから差込まれた、腰を撫でる日置の手も熱い……。
「部屋着姿見たい……けど……。はぁ……いつまでもキスしてたい」
「オレも……」
くすぐるように口内をなぞられ、力が抜ける。
首にすがりついて優しく唇を噛めば、二人の息はさらに熱くなった。
日置がどれだけオレの事を好きか、そしてオレに愛されたがってるのか、ふれ合う身体からはっきりと伝わってくる。
オレもコイツの気持ちに応えるのに、もう何の躊躇もない。
「ん……はぁ……。日置……好きだ。他のヤツなんか見るな。ずっと……オレだけのものでいろよ」
「ぁふ……うん。俺はラブちゃんのものだ。ラブちゃんだけ。好き。好き。頭がおかしくなりそうなくらい俺の心の中はラブちゃんばかりなんだ」
日置の潤んだ目にオレが映ってる。
好きだって言われるたびに、瞳の中のオレも『日置が好きだ』って気持ちを溢れさせていた。
その目でいつまでもオレを見つめて。
その口でオレの名を呼んで……。
これまでの相手なんか、全部忘れろ。
オレの味を憶えて、オレだけに感じて、オレだけ欲しがる、そんな日置になってしまえばいい。
日置が足をからませながら、オレの身体を壁に押し付けた。
「ラブちゃんになら、何されてもいい……」
息を荒くしてオレの首筋にキスを散らす。
「何されてもいいなんて言いながら、ずいぶんがっついてくるな……」
しっかり猛った日置のモノに自分のモノをすり付ける。
首筋にかかる息の熱さに、日置の身体を撫でるあげる手が湿りけを帯びた。
「日置……もっと……」
「ラブちゃん……好き……。好き……。好き……」
また日置が荒々しく口づけ、舌を絡めてきた。
夢中でオレに腰をすり付けてくる。
少し、飛んでる。
無茶苦茶にオレをかき抱く。
ちょっと痛い。
けど……可愛い。
「っ……ん……ラブちゃん……。んはぁ……はぁっ……ラブちゃん……ラブちゃん……」
もっと、もっと、乱れさせたい。
みっともなく、オレを欲しがらせたい。
誰も知らない日置が……欲しい。
互いの身体の熱を高め、求め合う手は、なかなかバスルームの扉には届きそうもない。
《3章-終》
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